八 やはり的中する予言
風呂に入り、簡単な夕食を済ませると、妻と息子は早々に寝室に入ってしまった。よほど疲れたのだろう。
私は缶ビールを片手に、昨日届いた手紙と、先ほど郵便受けに入っていた手紙をテーブルの上に並べて眺めていた。
どちらも同じ筆跡。消印だけが同じで、あとはコピーでもしたかのように同じだった。郵便番号の最初のマスの「1」の数字が、上から下まで貫いている箇所まで、全く同じだ。
私は内心で、小さく気合いを込める。この手紙の差出人が、占い師か預言者か霊能力者かは知らないが、どのような意図をもって私を誑かそうとしているのか、解明してやろうと心に決めた。
先ずは、昨日の金曜日の手紙を開けてみる。それまでの例に漏れぬのならば、その中には今日一日の出来事が預言されているはずだ。
ガムを踏む。
コーラはむせる。
熱が出る。
コーラで咽たのは息子だったが、一応予言は当たっている。しかしその上下の二つには覚えがない。やはり適当に書かれた内容だったのか、とも考えたが、一応私は玄関にある、今日履いていたスニーカーの裏を確認した。しかし、私のスニーカーの裏は小石程度しか挟まっていない。念のため裕樹のキャラクターが描かれた靴の裏も見るが何もなかった。
「なんか馬鹿らしいかな」
一人で呟いてみたが、聡子のサンダルを忘れていた。その裏に、黒くこびりついた粘着質の物体があるのを私は見つけてしまった。
ひとつめの預言も的中していることがわかった途端、私は寝室に駆け込んでいた。勢いよく私が部屋に入ってきたことに驚く妻を横目に、裕樹の額に手を置いた。
「おい、裕樹熱あるぞ」
妻も息子の熱を確認する。
「ほんと、ちょっと熱いわね。測ってみる」
裕樹の寝息は、然程苦しそうには見えなかった。妻が体温計で図ると、七度を僅かに超える数値が出た。
「微熱ね。きっと遊び過ぎて疲れたのよ。明日も熱があったら、病院連れてくわ」
私たち夫婦は、そろってほっと吐息した。
「でも、あなた、よく裕樹が熱出てるって分かったわね。一緒に寝た私だって気付かなかったのに」
聡子は不審な目で私を見る。
「寝る前、あまり調子よくなさそうだったから、気になっただけだよ」
妻にはこれ以上、不要な心配はかけたくはなかった。