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六十 オマエノセキニンダ

 今更ながら、私は弥生のチカラを疑いきれなくなっていた。

 もし、彼女の言葉が真実だったのならば、私はとんでもない過ちを犯していたのではないだろうか。

 不安感が、私の背中を凍らせた。

 弥生はまだ近くにいるだろうか。彼女に直接確かめねばならない焦燥感が芽生えた。


 その時だった。私は、地面の揺れを感じた。

 地震かと思われたその揺れは、あまりに長く続いている。そしてそれは、次第に大きくなっていた。

 私と同じように電車を待つ人々も、その奇妙な現象に戸惑いだしている。

 既に立っていられぬほど、揺れは大きなものへと成長していた。

 OLが転び、老人が座り込み、サラリーマンが這いつくばる。

 私も膝をつき、地面に両手を落とす。土下座の格好で、揺れが治まることを願った。そして、聡子と裕樹の姿が脳裏に浮かぶ。二人が狭いマンションの中で、寄り添って泣き叫ぶ姿が見えた。泣きながら、私に助けを求める声をあげていた。


 揺れは続く。

 ふと私は、向いのホームに目をやった。そこには、こちら側同様に地面に転がる人々がいる。恐怖に耐えきれず、超音波のような悲鳴を上げる女もいた。

 その中でただひとり、柱に掴まっただけの姿勢で、立ったままこの揺れを堪えている少女がいる。

 それは、弥生だった。

 弥生が、恨めしい瞳で私を凝視していた。

「なんだこれは。一体これは、なんなんだ!」

 私は弥生に向い叫んでいた。しかし、その声は天地を埋める轟音により掻き消された。頭上で鳴り響く雷鳴を百乗しても及ばないような音の暴力が、全ての空間を支配していた。

 私は、救いを求めるように弥生を見た。

 彼女はいつしか柱も持たず、ただ立っていた。私には、弥生がこの世界でただひとり立つことのできる存在に思えていた。そして彼女の片腕が上がり、その先の指が天を指した。


[オマエノセキニンダ]


 弥生の口は、確かにそう動いていた。

 私は弥生が指さす空を見る。

 そこには、太陽があった。あるはずのない西の空に、二つ目の太陽が見えた。


 私の責任なのか。あれが、私のせいだと言うのか。

 第二の太陽はみるみる巨大に膨れ上がり、この町を、国を、世界を飲み込もうとしている。

 そういえば、巨大な彗星が地球に接近しつつあるというニュースを聞いた気もする。


 もうそれ以上、苦しみは無かった。




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