五九 最後の疑問
なんとも気分の悪い手紙だった。
私を怨むと書いてある。
それは逆だろう、と言ってやりたい。騙されて傷つけられたのは私の方なのだから。
ようやく嫌な記憶が薄れかけていたというのに、弥生は何故今になって、このような不可解で不快な手紙を書いたのだろうか。その上、私を待ち伏せてまで、手紙を渡す必要があったのだろうか。
文面はそれ以上に不可思議だ。
自分の詐称を認めていながら、私の行為を責め立てている。私が全て悪いと書かれている。
彼女は、いよいよ精神に異常をきたしてしまったのだろうか。
私の責任とは何だろう。
私は確かに、西上を殴った。
しかし、当初の予定であった殺害には至らなかった。
私の罪は軽いはずだ。
あの西上という男も、制裁を受けてしかるべき男であったと信じている。
殺さなかったが、あの益本たちも喜んでいたはずだ。
私は感謝こそされ、恨まれる筋合いは一切ないのだ。
もう、関わるのはごめんだ。
いつの間にか改札を抜け、私はいつものホームで電車を待っていた。
ホームに設置されているクズ入れに手紙を放る。
不快な手紙を読んだせいか、私は喉の渇きを覚えた。手近な自販機にコインを投じ、缶コーヒーのボタンを押す。
しかし、その自販機は何の反応も示さなかった。
私はありありと、凡そ一年前の光景を思い出す。
あの時も、私は自販機でコーヒーを買おうとして、そして商品が出てこなかった。
弥生がどんなに大きな組織の一員であったとしても、自販機を恣意的に故障させることが可能だろうか。
私は、地面から足が浮いたような不安感に襲われる。弥生は本当に詐欺師だったのか。
周囲の目を気にすることもなく、私は先ほど捨てた弥生の手紙をクズ入れから回収した。
そして、私に対する恨みを綴った手紙の、裏側を見た。
そこには、こう書かれていた。
朝缶コーヒーを買っても、商品が出てこない。