五五 この金にはもう一つ意味がある
理恵子の告白により、詐欺行為があったことが証明された。
私は二重三重の謀により、弥生のもとへと導かれた。そして、まんまと彼女の予言能力を信じた結果、西上を害する役割を果たしてしまった。幸い殺人は犯さずにすんだものの、傷害事件として十分立件される可能性が高い。
母が騙されたから。私が騙され易い血筋だったから。
しかし、なぜここまで不幸を背負わなければならないのだ。
母が失意の底で死んだだけでは、まだ足りないというのか。
私の足は自然と弥生のアパートへと向かっていた。弥生はもういないだろうと諦めていたにも関わらず、歩みを止めることができなかった。一言でも、この怒りをぶつけなければ気が治まらない。
意外なことに、弥生のアパートには灯りがついていた。
高まる鼓動を感じつつ、私はアパートの呼び鈴を押す。
無視されるのだろうと諦めていた。しかし、戸は乱暴に開き、私は部屋の中へと強引に引っ張り込まれてしまった。
「あんたもしつこいね」
畳の上に投げ飛ばされた私に向い、冷酷な言葉が降ってきた。
顔を上げると、目の前に益本がいた。
思わず殴りかかろうと試みたが、後ろから太い腕で羽交い締めで抑えられる。私を部屋に引っ張り込み、畳に突き飛ばした人物だろう。
益本は落ち着いた顔で、タバコを吸っている。その隣に、弥生が座っていた。
「こそこそ嗅ぎまわったりされたら、俺たちゃ心休まらんだろ」
タバコの煙を私の顔に吐きかけながら、益本が言った。
「そもそもあんた、失敗したじゃないか。ちゃんと殺してもらわんと、世界が滅びちまうぜ」
益本と後ろの男は同時に笑った。しかし、弥生だけは笑っていなかった。
「だけどさ、あんたのお陰で西上はおとなしくなったよ。慰謝料として請求していた一千万円、翌日直ぐに振り込んできたぜ。あんたにも分け前をやる」
私はようやく解放された。反射的に後ろの男を振り返り睨みつけるが、それは初めて見る顔であった。
その見知らぬ男は茶色い封筒を取り出し、私に投げつけてきた。胸に当たったその感触では、十万円程度の金が入っているのだろう。
「この金にはもう一つ意味がある。そりゃなんだか、分かるよな?」
益本がニヤケ顔のまま、煙草を揉み消していた。
「それから、恨むなら俺たちじゃないぜ。全部、この弥生が考えたことだ。あんたをターゲットとして選んだのも、計画に引っ張り込む段取りも、全部この女が考えたことだ」
間違っても警察なんか行くなよ、と言い残し、益本と腕の太い大男は部屋を出て行った。
アパートには、私と弥生だけが残された。