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五四 詐欺の証明

 もうこの件には関わらないことを決めたはずだったが、私はどうしても自分を納得させることができずにいた。

 あそこまで徹底した準備をしてまで、私に西上を始末させる必要性があったのだろうかと、訝しい。

 何が正しいのか、分からなくなっていた。

 仕事を早々に終わらした私は、いつのまにかあの占いの館に足を向けていた。

 まだ記憶に新しいビルに足を踏み入れ、目的の階に上がる。

 エレベーターが開く瞬間まで、私はあのときのパンダ目メイクの女子高生に出会えることを、半ば期待し、半ば恐れていた。結局その廊下には誰もいなかった。

 前回行列ができていた店の前には、一人も客はいない。役目のないパイプ椅子が、折り畳まれて並んでいた。

 今日は休みなのかと疑ったが、しっかりと営業していた。

 受付にてRisaを指名すると、すんなりと通される。そして、数分も待たぬ間に、本人が登場した。その手際の良さは、飢えた野良犬が生ゴミを漁る様を私に連想させた。

 理恵子は私を見ると、直ぐに誰であるか思い出したようだ。そして、警戒の色を顔に浮かべる。

「今日は、なんの用ですか?」

 彼女の声音は刺々しかった。

「野中さんに言われて来たの?」

「違う。そんな理由じゃないさ」

 深く長く息を吐き、理恵子は気持ちを落ち着かせているようだった。

「じゃあ、何の用なの?」

 整った眉が寄せられ、私は睨まれている。

「なんで野中先輩に近付いたんだい?」

 理恵子は黙ったまま、私を睨み続ける。私は臆することなく、その視線を受けた。

「誰かに頼まれたんだろ。野中先輩がこの場所に来た時、おそらく彼が受付にきて占いを受ける僅かの間に、君は誰かしらに頼まれたか命令されたはずだ」

「……何を言ってるのかわかりません」

「君は一人の男の人生を狂わせたんだぞ。良心は痛まないのか?」

 ようやく、理恵子の視線は私から反れた。

 そして、長い沈黙を経て、彼女は口を開く。

「彼、訴えるつもりなの?」

 理恵子の瞳は潤んでいた。

「そんなことはないと思う。でも先輩は、本当に君に惚れていたよ」

 理恵子は首が折れたように顔を落とす。前髪により瞳は隠れていたが、零れ落ちる涙が見えた。

「……最初は、親しくなるだけで良かったの。それだけで、私は報酬が貰えるはずだった。でも、一緒にいる間に、私も好きになりかけてた。本当です。本当に結婚しちゃってもいいかなって思ってた。だから、ご両親に挨拶までしました。だけど、結婚が現実的になってきたとき、怖くなったんです。邪なきっかけがばれちゃったとき、それこそ取り返しがつかなくなるって。だから、全てなかったことにしたんです」

「誰に頼まれたの?」

「益本っていう男です」

 ビクリと私の体が震えた。これは間違いなく、武者震いだ。

「野中さんと親しくなったら五十万円。前金でくれました。その後、あなたがここへ来ることになったら、もう五十万円貰えるはずでした。でも、あなたが来ても、残りのお金はくれません。益本との連絡もできなくなってます。携帯が繋がらないの。はじめにもらった五十万円は、野中さんに迷惑料として全部渡しました」

 だからもう許して、と理恵子は声をあげて泣いた。


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