五 意識しはじめた予言
その日は朝一番に得意先とのアポイントがあったことから、私はいつもより早く、妻も息子も寝ている間に家を出た。
昨日は見事に手紙の内容が的中していたことから、私は再び届けられた無記名の予言を意識していた。
たしか一行目は、電車が遅れるという内容だった。あえてそれを外すためにタクシーでも使ってやろうかと考えたが、そんな経費は認められるはずもない。私は諦めて電車に乗る。
普段より早い時間のため、私は悠々と座ることができた。駅に停まる度、列車が遅れるというアナウンスが響くのではと気にしていたが、結局定刻通りに目的地に到着することができた。
そんなものなのだ。予言なんてものは、偶然が重なったときだけ的中するのだ。
私は得意先の受付に、約束通りの時間に着く。
寝むそうな事務員をつかまえ、担当者を呼んでくれるように頼むと、思ってもみない応えが返ってきた。
「申し訳ございません。鈴木は会社には向かっているのですが、どうやら電車が遅れているようで、お約束の時間には間に合わないとのことです」
電車が遅れた。
これも、的中したといえるのだろうか。
私は仕方なく、自分の会社に戻り出直すことを告げた。
そして、その得意先の建物を出た途端、私は強い衝撃を肩に受ける。
「ごめんなさい」
女子高生が乗った自転車が、よろけながら去ってゆくのが見えた。
自転車にぶつかった。
まだ朝なのに、既に二つの予言が当たってしまったこととなる。
私は会社に戻り、直ぐに外出し、いつもどおりの業務をこなす。
またもや帰宅時間は遅くなってしまった。
その日は、携帯電話は二回しか鳴っていなかった。営業マンである私にとって、これは極めて少ない、
マンションに帰宅するまでに、もう一度なるのだろうと覚悟していたが、結局そのまま鳴ることはなかった。ただ、私は気がついてしまう。私は朝起きるために、携帯電話を目覚まし代わりに使っているのだ。それを加えれば、今日は三回携帯は鳴ったこととなる。
携帯電話は三回鳴った。