四 再び届けられた手紙
不可思議な手紙に書かれていた内容すべてが、その日のうちに起こってしまった。
気味が悪いとは感じたが、特に驚くことはなかった。自販機が故障することも、定食屋のオヤジが注文を間違えることも、ゴキブリを踏みつぶすことも、それほど珍しいことではないからだ。
しかし、家に帰りネクタイをほどいていた私に妻が語ったことには驚かされた。
「ねえ、今日も手紙来てるわよ」
スエット姿でテーブルに座る私の前に、昨日見たものと同じ封筒、同じ筆跡で私の名前が書かれた手紙が置かれていた。
「やっぱり差出人の名前がなかったから、捨てちゃおうかと思ったんだけど、一応とっておいた」
味噌汁を注ぎながら、妻が迷惑そうな顔で話す。
私は封を破り、中の便箋を取り出した。
電車は遅れる。
自転車にぶつかる。
携帯電話は三回鳴る。
私はその文面を凝視した。やはり、なんでもないような、いつでも起こりそうな出来事しか書いていない。
「今日のは、なんて書いてるの」
妻が覗き込んで、その短い三行の文を読んだ。
「おんなじ筆跡ね。なんなのこれ?」
私は、昨日の手紙の内容が今日一日で実際に起こったことを、妻には話さなかった。
これを書いた人物は、おそらく占い師か霊能力者の類なのだろう。そして、そんな奴らは総じて詐欺師だ。
いつでも起こりそうなことを、さも自らが見たように相手に伝え、騙そうとするのだ。
何者かはわからないが、誰かが私をたぶらかそうとしていることだけは分かった。
「くだらない悪戯だよ。もし明日も来たら、捨てちゃっていいよ」
私は昨日と同じように、その封筒と便箋をくず入れへと放り投げた。今日も見事にゴールした。中高とバスケ部だった私には朝飯前だ。
「ねえあなた、浮気とかしてるんじゃないでしょうね」
妻の名前は聡子。名前のとおり頭が良い。しかし、感は良くないようだ。実際私は不貞をはたらいてはいない。
「馬鹿なこと言ってないで、早く飯にしてくれよ。くたくたでぺこぺこなんだ」
私は味わうこともなく夕飯を食べ、風呂に入り、息子の寝顔だけを拝んで眠った。