表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/60

二六 黙っていられることと、黙ってちゃいけないこと

「弟が死んでから、私を見る両親の目が変わりました。そりゃそうでしょうね。でも、これは仕方のないことだったんです。でも、あの人たちは最後には、弟が死んだのを私のせいだと言い出したんです。運命だったのに、それが定めだったのに、あの人たちは私を責めたんです。お前のせいだ、お前が良太を殺したんだって」

 自分の親を『あの人たち』と表現する弥生の言葉には、憎しみは感じられない。既にそのような段階を通り越し、諦めの心境に達しているように見えた。

「未来を、私は事前に見えてしまう。今にして思えば、それを教えなければよかったのでしょうね。知らなかったら、あの人たちはあの不幸を受け入れることができたんじゃないかと思うんです。でも、私だって悲しかったんですよ。七歳の女の子には、そんな悲しみを自分一人で抱え込むことはできなかった。だから、話ちゃったんです。そうして私は魔女のように扱われ、諸悪の根源とされ、家から追い出されたんです」

 今にも泣き出すのではないかと私は身構えたが、弥生の表情は終始変化しなかった。

「それから、ずっと一人で生きてきました。もちろん、寮では世話をしてくれる人たちもいたし、今こうして一人暮らしをしている費用も、あの人たちから出してもらっています。でも、家を出されてから、家族の顔は誰も見ていません。もう、見たくもないし、見ても誰だか分らないでしょうね」

 私は裕福ではなかったが、母の愛情を受けて育ったつもりだ。これまで付き合いがあった知人の中にも、彼女のような不幸な生い立ちをもつ人物はいなかった。そんな不幸は、映画や小説の中だけだと信じていたのかもしれない。だから私は、弥生の告白に対して、どのような反応を示してやればいいのか全く分からないでいた。

「こんな話に、意味なんてあるのかとお思いでしょうね」

 弥生の問いかけに私は肯定も否定もできず、ただ彼女を見つめていた。

「私は見たくなんてなかった。でも、見えてしまうんです。一人になってからは、できる限り見たものを人に話さないようにして生きてきました。たまに未来と現在がこんがらがってしまって、人に話しちゃうこともあるんですけど、基本的には普通の女の子を演じてきたつもりです。せいぜい、さっきのクラスメイトに恋占いをしてあげる程度です」

 クラスメイトとは、私をここへと案内してくれた女子高生たちのことだろう。彼女たちはメイクも濃く、髪の色も明るいものだった。クラス全体がどうか知らないが、弥生はさぞ浮いた存在に違いないと私は思う。

「何度も言いますけど、私も未来なんて見たくなかった。でも、黙っていられることと、黙ってちゃいけないこともあるんですよ」

 ようやく弥生は、私が聞きたいことを話そうとしている。


「この世界が終ろうとしているのに、私は黙っていられないんです」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ