二五 弥生の生い立ち
真正面から凝視してくる弥生の目は思いのほか大きく、十分女性を感じさせる力を持っていた。
「チカラ、ねえ」
私はたまらず、視線を湯呑に落とす。
「もう、信じてもらっていると思うのですけど」
弥生も視線を湯呑に向けた。
「正直に話すとさ、僕は、占いとか予言といった類が大嫌いなんだよね。そんなものを信じるのは愚か者だし、占い師や霊能力者と称するやつらは皆詐欺師だと思ってる。でもね……」
「でも?」
首を傾けて、弥生はその先を促した。
「……でも、君の手紙は、確かに当たった」
「じゃあ、信じてくれるんですね。私のチカラ」
私は首を横に振る。
「その先は、なぜ君があんな手紙をよこしたのか、その理由を聞いてから答えるよ」
「信じてくれないのなら、理由も話しません」
弥生の言葉には、断固とした意思が感じられた。
その後しばらく、私たちは向き合ったまま、沈黙の時間を過ごした。ゆうに十分間の静寂を経て、私は口を開いた。
「わかった。信じるよ。君の予言が当たったのは事実だしね。さあ教えてくれ。なんで僕に手紙を送り続けたんだい」
口先だけでもそう答えねば、話が前に進まなかった。
弥生は肩を落とした。落胆したのではなく、安心したという様子だった。彼女なりに、この状況に緊張しているのだとわかった。
「よかったです。第一関門が越えられました」
残りのお茶を飲み干して、弥生は立ち上がった。
「おかわり、淹れますね」
座布団との摩擦により、弥生のスカートから白い足が見える。今時の女子高生にしては長いスカートだった。彼女を女として見ている自分を見つけ、私は自己嫌悪を覚えていた。
「手紙の理由をお話する前に、私のことを少し話させてください」
急須に手を添えて、新しい緑茶を注ぎながら弥生は語りだした。
「私は、七歳のときに親に捨てられました。理由は、気持ちが悪かったからだそうです。これは、本人たちから直接聞かされました。育児を放棄した私の両親は、私を全寮制の学校へと放り込んだんです」
思いがけない話の展開だったが、私は黙って彼女の話を聞いた。
「気持ち悪いというのは、もうお分かりかもしれませんが、私が未来を的中させてしまうからです。今日は午後から雨が降るよ。明日は早くから伯母さんから電話があるよ。そんな虫の知らせ程度の話は、両親もニコニコしながら聞いてくれていました。弥生はすごいなぁ、なんて誉めてくれたくらいでした。でも、不幸な予言を的中させた途端、二人の態度は一変しました。良太はトラックに轢かれて死んじゃうよ。良太というのは私の弟です。まだ三歳でした。この言葉を言ったあと、あの人たちは私を叱りました。そんなことは、言ってはいけないと。でも、私は見えてしまったんです。弟が、大きなトラックに弾かれて、ふわりふわりと宙を飛ぶ姿を、です。そして、私の見たとおりに、良太は死んでしまいました」
淡々と、弥生は語り続けた。