二三 予言者の正体
女子高生たちが「ここだよ」と教えてくれた場所は、どう見ても客商売を行う店構えではなかった。古いアパートの一階部分に当たる一室。看板どころか、表札も出ていない。
「本当にここかい?」
「お店じゃないからね」
彼女たちは不安げな顔の私を置きざりに、再び繁華街へと去って行った。
去り際に、彼女たちは一斉に私の顔を伺い、もう一度だけ盛大に笑っていた。
これはかつがれたな、という意識が強かった。しかし、確認もせず帰ることもしたくはなかった。
他のアパートの部屋の外には、洗濯機や自転車があり、生活臭がするのだが、女子高生が教えてくれた部屋には何もない。既に暗い時間帯なのだが、明かりも灯されてはいなかった。
騙されていなくとも、留守のように見える。
私は念のため、ドアの横に据え付けられている呼び鈴を押してみた。期待に反して、何の音も出なかった。壊れているか、電池が切れているのか。
仕方なく、私は帰ることにした。それほど気にすることでもないのだろうと、自分自身に言い聞かせる。それは苦し紛れの言い訳なのだろう。
駅へと向かうため、アパートからくるりと反転した瞬間だった。私の目の前に女性が立っている。背が小さいので、私はその女性のつむじを見るような格好となった。それほど近くに、彼女は立っていたことになる。よくぶつからなかったものだと、私は驚いた。
「いらっしゃい。お茶を買いに行ってたの。やっぱり時間どおりでしたね」
一歩下がり、私は女性を見た。先ほどの女子高生たちと同じ制服を着ていた。しかし、先ほどの集団の中に、彼女はいなかったはずだ。ひとりひとりの顔を覚えているわけではなかったが、私は確信できた。
目の前の女子高生は、全く化粧をしていない。化粧どころか、髪も梳かしていないのではと思われるほどボサボサだった。つまり、所謂今時の女子高生ではなかったからだ。先ほどのグループの中には、これほど暗い印象を与える者はいなかった。
「あの、この部屋の人なのかな?」
とっさに出た私のセリフは、このような間の抜けたものだった。
「もちろんですよ、さあどうぞ」
ぱっとしない風貌ではあったが、彼女の反応は早く、歯切れが良い。しかし、私は理解しかねていた。
「どうぞって、僕はまだ何も言ってないけど……」
「塚下さんでしょ。知っていますよ。私に、会いにきれくれたことも」
私は彼女を一目見た瞬間から、分かっていた。
彼女こそ、私に手紙を送り付けてきた人物であるということを。
それは、直観なのか。しかし、私はそのようなことは信じない。人間に、不思議な力なんか存在することは、絶対に認められない。だからこそ私は、当たり障りのない、普通の対応をあえてしてしまう。
しかし、彼女が予言者であることは、肌で感じて理解してしまった。
「さあどうぞ」
彼女は再び促した。薄っぺらい鍵で戸が開けられ、真っ暗な部屋が見えた。
私を、その暗闇に招き入れようと、彼女は笑っていた。