二十 テクニックについて
住所、氏名、年齢、生年月日、血液型、家族構成を書く欄があるが、すべて私は偽りの情報を記載した。
今悩んでいること、という欄には「仕事」とだけ記入した。
その後しばらく、ゆうに二十分はその暗い部屋で待たされた。じっくりと時間を与え、少しでも私という顧客から情報を得ようというのが、彼らのやり方だ。
しかし、この占いの館はシステムとして不十分だと、私は知っている。
この待つ時間、プロならば先ほどの受付の女性を使い、何気ない会話からも客から情報を得ることができるはずなのだが、あのオカメ顔の女は何も話しかけてはこなかった。おそらく新人なのだろう。
客から事前に情報を得、それをさも占いや特別な力で見抜いたふりをするのが、ホットリーディングと呼ばれる詐欺師のテクニックだ。
反対に、その場で仕草や雰囲気を読んで、相手の性格や心を読もうとするテクニックは、コールドリーディングと呼ばれている。
Risaは、そのコールドリーディングに長けている存在なのかもしれない。
そこで、私はここへ来た目的を見失っていることに気がついた。
むろん、占いをしてもらうために訪れたのではない。
そして、占い師の悪行を看破することも、今日の目的ではないのだ。
私は、例の手紙の目的を問いただしにきたのだ。
そして、私はあの手紙の内容を、殆ど信じていた。
信じているのに、今だにその対象と思われる人物を詐欺師だと決めつけていた。
自分自身でも、何を考えているのか、何を求めているのか分からなくなってきていた。
「間もなく、先生が参ります」
先ほどの受付の女性の声が聞こえた。
喪服のような黒い着物を着た女性が、ゆっくりとした動作で現れた。そして、私の目の前にテーブルを挟んで座った。野中が見せてくれた写真の人物、理恵子だった。