十九 マジヤバイ
パイプ椅子に座っていると、眼の前の女子高生二人組が、ちらちらと私のほうを窺ってきた。やはりこんなおじさんが、占いの館に一人で足を踏み入れることは、よほど珍しいのだろう。
そのうち、新種のパンダのようなメイクをしている女子高生の一人と目が合った。私は軽い会釈を返す。
ただそれだけで、彼女たちは爆笑した。笑われたことで一瞬不快な気分にさせられたが、彼女たちは箸が転んでも笑う年代なのだ。
「おじさん、リサさんに見てもらうなんて、結構つぅだね」
パンダメイクの女子高生が、私に話しかけてくる。
「そうかい?」
倍ほども年が離れているだろう女子高生と、どんな調子で話していいのか、私は分からなかった。
「つぅだよさそりゃ。あっしらの間じゃ、カリスマ? マジよく当たるしヤバイ」
彼女たちはまた笑いだしていた。
言葉を理解するために、一度頭の中で租借する必要があった。その後彼女たちは、内輪でその占い師のすごさを語り合っている。
どうやら相当に人気のある占い師のようだ。その十人ほどの列も、多くがRisaに占ってもらおうという人々なのだとわかった。
時間経過と共に、行列は進んでゆく。そして私の後ろにも、新たな客が並び始めた。やはりすべて女性だった。
受付の女性が言ったとおり、一時間ほどでようやく私の順番がやってきた。
廊下から、まずは狭い個室に通される。そこで料金の前払いを行うシステムのようだ。初見料は五千円と聞いて耳を疑った。そのまま帰ってやろうかとも考えたが、待った時間を無駄にしたくもなかった。
なけなしの五千円札を渡すと、次回からは三千円に割引されるのだと、先ほどの受付が教えてくれる。
来るわけないだろこのオカメ、と内心で悪態をつき、私は更に別の個室へと移動することとなる。
暗い部屋だった。
スポットライトが照らす、丸いテーブルが置かれており、その前後に足付きの悪そうな粗悪な椅子があった。
受付の女性は、そこに座るように促した。
「簡単な設問用紙がございます。すべてご記入いただけなくとも構いませんが、より正確な未来を見るためには必要ですので、できるかぎりお書きください」
テーブルの上に一枚のアンケート用紙が置かれていた。
まあ、そんなもんだろうな、という感想を私はもつ。私は占い師の類を憎んでいるため、彼らのテクニックはある程度理解していた。敵の技術を知ることが、いつしか母の仇をうつときに役立つと思い、いくつかの関連本に目を通していたのだ。