十八 敵陣へ
理恵子なのになぜRisaなのか。そんな疑問を第一に抱いた。
野中は名刺を渡すと、さっさと自分の仕事を片付けるために事務所へと戻ってゆく。
私は、野中が無理やりに私を婚約者のもとへと連れてく、という光景を予想していたため、拍子ぬけした。
しかし、私は早々に帰り支度を終え、会社をあとにする。
その足で、もらった名刺の住所へ向かった。
私は早く、このもやもやとした状態から抜け出したかった。
手紙の差出人は、なぜあのような手紙を私に送り続けたのか。その意図はなんなのかを知りたかった。
その場所は、会社から地下鉄で十五分程度の距離だった。場末の飲み屋街であり、帰りがけの一杯を求めるサラリーマンたちがようやく現れはじめるといった時間帯だった。
ビールケースを抱えた配達途中の酒屋をつかまえ、名刺の住所を尋ねると、驚くほど早くその目的地は見つかった。
<占いの館>
そんな小さな看板が出ている。ネオンの装飾もなく、地味な外観だった。
店はクラブや居酒屋が混在するテナントビルの一角に設けられているようだ。私はエレベーターに乗り、目的の店がある五階のボタンを押す。
エレベーターが到着し、扉が開いた途端、私は圧倒された。
そのフロアは、女子高生を中心とする若い女性たちで溢れかえっていたからだ。十人ほどの女性たちは、みな狭い廊下に並べられた椅子に座り、順番待ちをしているようだ。そのままドアを閉め、帰りたい気持ちを抑えながら、私はエレベーターを降りた。
女子高生の中にポツンと私のようなオヤジがいれば、当然ながらその存在は浮いたものとなってしまう。キャーキャー騒いでいた彼女たちも、私の登場のせいで水を打ったように静かになってしまった。
「ご予約はされていますか?」
スーツ姿の女性が現れ、私に尋ねる。どうやら受付担当のようだ。ベールをかぶったさも怪しげな人物を私は想像していたが、この女性はクリーム色の落ち着いてスーツを着ている。
「いいえ」
私の受け答えに、廊下に並ぶ女性たちも注目しているようだ。押し殺したような笑い声も聞こえる。
「お目当ての先生はいらっしゃいます?」
占い師は先生という呼ばれ方をするのか、と私は驚く。たかが占い師に先生とは、と呆れた。そしてここには、理恵子だけではなく、他の占い師もいることが判明した。
「あの、理恵、じゃなかった、Risaさんにお会いしたいのですけど」
会いたいという表現に、その受付は一瞬眉をしかめた。しかしすぐに営業スマイルを取り戻す。
「ご予約がない場合、一時間ほどお待ちいただくことになりますがよろしいですか? 他の先生なら、直ぐに見てもらうこともできますが」
「いいえ、Risaさんでお願いします。待ちますんで」
受付の女性は私にパイプ椅子を指示し、そこで待つように言った。