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十六 新たな展開

 赤い顔で帰宅した私を、妻は呆れ顔で出迎えた。

「ねえ、今日も来てたわよ、例の手紙」

 どうする? 捨てる? と目で訪ねながら、聡子はごみ箱の上でその手紙をゆらゆらと揺らしている。

 私はその手紙を受け取った。封は既に破られている。


  わたしと会う


 見慣れた便箋には、たった一行、短い言葉が書かれていた。

「本当に浮気じゃないでしょうね」

 目を細め、聡子は私を睨んでいる。事前に内容を確認していた妻は、私の不倫への疑いを強めたようだ。この文面では、疑いをもっても仕方がないだろう。

「いたずらだって言ってるだろ」

「そうやってむきになるところも怪しいわ」

 本気か冗談か分からないが、妻の顔はふくれていた。

「バカバカしい」

 私は手紙をごみ箱へ投じ、食事の準備をしてくれと頼む。野中と飲んだとき、私は殆どつまみには手を出していなかったため、腹は減っていた。しかし、手紙の文面を見てから、急速に食欲は減退していた。

 平常心を保っているつもりだったが、妻は気がついただろうか。私が夕飯の味も分からぬほど狼狽していることに。

 わたしと会う。

 これはつまり、明日、この手紙の差出人が、私と直接コンタクトをとりにくるという意味だろう。

 妻には予言が的中していることは、まだ伏せている。余計な心配はさせたくなかったからだ。

 しかし、春巻きにかぶりつきながら、私は悩んだ。いま打ち明けてしまおうか。これまでの予言は、私を中心に書かれていたが、聡子や裕樹についても触れられている。これは、家族の問題となっているのだ。

 結局食事は半分残し、私は逃げるようにテーブルを離れ、そのまま風呂へ入った。

 温い湯に浸かりながら、私は手紙の一行について考える。

 わざわざ『わたしと会う』などと書いているということは、これまでに私とは合ったことがない人物だろうと推察される。たとえば、野中が差出人だったとして、毎日顔を合わせているような人物が『会う』ということを強調することは不自然だ。少なくとも、頻繁に接触がある人間ではないだろう。更に、これまでのような三行の予言が書かれていないということは、それはもう十分役割を果たした為ではないだろうか。差出人は、自らの力を、あの三行の文で誇示したのだ。事実私は、その力を信じつつある。これまで占いや予言の類は、百パーセント否定してきた私だったが、手紙の予言は疑うことができない状況だ。

「なんだってんだ……」

 呟いたつもりだったが、浴室では声が響いた。


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