十一 家族の寝顔
散々な目に逢って、私たち家族は家に帰ってきた。
妻も息子も疲れた顔をしているが、誰よりも私が疲労していた。
手紙の内容に反した行動をとったつもりであったが、結局すべての予言は当たってしまった。
「もう、今日は早く寝ましょうね」
妻は郵便受けを見ることなく、エレベーターに向かってゆく。
そうか、今日は日曜日で郵便局の配達も休みだった。郵便受けには、どうせ不動産とすし屋かピザ屋のチラシ程度しか入っていないのだろう。
私にとっても、それは貴重な休息をもたらすことになった。
風呂に入り、聡子と裕樹は言葉通り早く寝てしまった。
私は一人リビングにおいて、ここ数日の出来事を思い返してみる。
手紙に書かれていた内容は、すべてなんらかの形で的中した。
それはいずれも、私か私の家族に関して書かれた内容だ。
そして、手紙の宛名は私である。ターゲットは私自身か、私の家族を狙っていることになる。
予言が的中していることは、結果として一応認めなければならない。そして、その運命に逃れる術もないように思われる。
しかし、誰が、そしてなんのために、私に手紙を送り続けているのだろうか。
それが最大の疑問となっている。
私は金など持っていない。
妻の実家にはそこそこの資産があるようだが、ここまでのことをして、その資産を狙っているとも考えられない。何しろ超自然の力なのだ。仮にそんな力が本当に実在するとすれば、大金持ちから大金をせしめることも可能なはずだ。
目的は金ではないだろう。
そうなると、手紙の主の目的は私に対する怨恨か、もしくは私に何かをさせようと企んでいるのだろうか。
私はテーブルに頭をぶつけ、唸った。
考えれば考えるほど、差出人の意図が分からない。
私は多少の争いごとも経験してきてはいるが、誰かに恨まれるようなことはしていないつもりだ。
さらに、しがないサラリーマンになにができるというのか。
面倒くさくなった私は、考えることをやめた。
そして残り少なくなっていた缶ビールを呷り、妻と息子が眠る寝室へと向かう。
二人の健やかな寝顔を見て、幸せをかみしめると同時に、私は漠然とした恐怖を抱いていた。