十 運命には贖えるのか
トースターが壊れる
ぼや騒ぎ
息子を殴る
やはりその手紙にも、三行の予言が書かれていた。
いいだろう。この予言を、あえて外してやろうと私は決める。
初めの一行、トースターが壊れるとは、文字通りとらえる他はないだろう。我が家は毎朝パンだ。明日の日曜日も、やはり妻は朝食にトーストを焼くのだろう。これならばいくらでも回避できる。
二行目の「ぼや騒ぎ」とは、小火のことか。ならば、一行目とからめて、これも回避する自信が私にはあった。
そして三行目。息子を殴るようなことは、これまでしたことがない。だからこそ、これも当然回避することができる。聡子も、裕樹を殴るようなことはこれまでにないはずだ。大丈夫だ。
私は缶ビールの残りを呷り、力強くその缶を握りつぶした。
翌朝の日曜日。裕樹はいつものとおり元気に起きてきた。心配された熱も下がっているようだ。
「パパ、今日は早起きだね」
不思議そうな顔をしている裕樹の頭を、私は乱暴に撫で回す。普段の休日ならば、九時まではゆっくり寝るのがいつもの習慣だったが、この日は妻や息子よりも早く起きる必要があった私は、あえて七時に目覚ましをセットしておいた。
「あらあら、パパ早起きね」
目をこすりながら、聡子も起きてきた。
「直ぐ朝ごはんの準備しますね」
「朝ごはんは、パパがここのモーニングセットを買ってきてやる」
新聞のチラシに入っているマクドナルドの割引券を見せて、私は言った。
妻も息子もいぶかしんで私を見ていたが、特に反論はないようだった。
私は直ぐに着替え、近くのマクドナルドへ走り、チラシにあったセットを三つ購入した。
そして、家に帰りついた私は愕然とする。トースターを抱えた妻と、玄関で鉢合わせになったからだ。
「おい、そのトースターどうするんだ?」
「裕樹がコンセント引っ張って壊しちゃったのよ。まあ、古くなってたし、仕方ないわ。叱らないであげてね」
私は頭に血が昇って行くのを感じた。無性に腹が立ち、息子の頬を張ってやろうという衝動に駆られたが、手紙の言葉を思い出し自分を抑えた。
こうして、一つ目の予言は当たってしまった。
そして、残り二つの予言も、結局的中することとなる。小火を恐れて昼も夜も外食したのだが、夜食に寄ったファミリーレストランの厨房で小火が起こり、私たちは逃げ出さねばならなかった。その騒ぎの最中、私は裕樹を抱きかかえようと手を伸ばした瞬間、他の客に押されて息子の頬を殴る形になってしまったのだ。