一 匿名の手紙
私は、預言者というやつが嫌いだ。
根拠もなく人心を惑わし、金儲けだけをを企む山師と同じだ。
ノストラダムスやエドガー・ケイシー、最近ではブラジルに怪しい預言者と称する人物がいるようだ。
そうした人物を取り扱ったテレビ番組や雑誌も嫌いだ。下劣で無責任で低脳としか思えない。
預言者というほど大げさなものではなくとも、繁華街に小さな店を出している占い師の類も、同じように嫌悪している。同じくらい、そうした占いを信じる人間も馬鹿にしていた。
人には運命なんてものはない。そして、決まった未来なんて存在しない。
なんの努力もしないで、占いなどに身を委ね、自身の生き方を決めてしまうなど愚の骨頂だ。
そう信じて生きてきた。三十歳を迎えるこのときまでは。
それは、一通の匿名の手紙が私に送られてきたことからはじまる。
なんら特徴のない、どこにでも売られている便箋だった。
表にうちの住所と、私の塚下裕正という名前が、楷書で書かれていた。そして裏は白紙だ。
それが、ワープロで印刷されたものや、昔ながらの脅迫状よろしく、活字を切り貼りしたものであったなら、私も多少は疑うことができた。疑うことができていれば、その中身を読んだときの驚きも、多少は緩和されていたことだろう。書かれていた宛名は、古い友人からだろうと思わせるような、私に全く警戒をさせない、ごく普通の文字で書かれていたのだった。