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08話 冒険者の誇り

「ヒヒヒ、どうした?固まっちまって。」


 突然出てきたゴブリンに、アインは驚きのあまり頭が真っ白になり動くことができなかった。

 その滑稽な姿を見たゴブリンたちは、自分たちより弱い相手に気をよくしたのか、アインに嘲るような言葉を投げかけるのだった。


「おいおい、あんまり脅かすなよ。ブルっちまっているじゃないか。かわいそうになあ。ほら、命乞いってやつをやってみろよ。俺はやさしいから見逃してやるかもしれないぜ?」


「こないだ泣き叫ぶ人間の子供の頭をたたきつぶした奴が言うセリフじゃないだろ。それ。」

「そうだったか?ガハハハハ。」


 そう言うと、なにやら面白そうに笑いだすゴブリン達。その凶悪な笑みを見てアインはさらに青ざめるのであった。


(殺さる。俺はこれからゴブリン達に嬲り者にされ、無残に息絶える。)


 これから自らに起きる悲劇と残酷な結末を瞬時に悟ったアインであったが、彼は決してその運命を受け入れようとはしなかった。

 深呼吸するように息を大きく吸って吐いたかと思うと、アインは表情を引き締め覚悟を決める。この戦いに生き残る覚悟を。


「うん?どうした。急に落ち着きやがって。まさか俺たちとやるつもりじゃ…。」


 アインの変化を不審に思ったゴブリン。しかし、その言葉は最後まで紡ぐことはできなかった。自分たちに目がけ突進してくるアインのスピードにゴブリン達は反応できなかったから。

 勢いよく飛び出したアインは、地を這うような低い姿勢で一気にゴブリンに詰め寄る。そのあまりの速度にゴブリン達は武器を構えるスキすら与えなかった。


(遅い!)


 次の瞬間、アインはゴブリンの足を掴みとる。

 決して強いとは言えないアインであったが、この動きだけは誰にも負けない自信があった。

 両親のいないアインが、ゴロツキや浮浪者たちから身を守るため、幼いころから日常的に繰り返してきたこの技だけは。


「お願いです。殺さないでください。何でもします。だから命だけは助けてください!」


 次の瞬間、アインはゴブリンに足をしゃぶるように丹念に嘗め回す。

 地獄のような日々を生き抜いたアインの唯一の武器、それは強者に媚びへつらうことに苦痛を感じない鋼の自尊心であった。


「お、おいやめろ!人の足を何を勝手に嘗め回しているんだ!」


「助けて、助けて、助けて、助けて!!ベロベロベロ。」


(ア、アインさん!?な、何をしているんですか!!お願いですからそんな恥かしいことは止めてください!!!)


「う…き、気持ち悪い。お、おい助けてくれ。」


 涙ながらに足をしゃぶるアインに、ゴブリンは心底嫌そうな顔し、仲間に助けを求める。


「確かに気持ち悪いけど…、お前の言った通り命乞いしてるじゃないか。」


「俺だってここまでされると思っていなかったんだよ。おい、いい加減にしろ人間!そんなことして、恥かしくないのか。」


「い、嫌だ。止めたら殺すんだろ。助けて、嫌だ、死にたくない。尻の穴もなめるから許してくれ。」


(お、落ち着いてくださいアインさん!それはダメです。ダメな選択肢です!!人として超えちゃいけない何かを軽々と飛び越しています。お願いだから、人としての尊厳まで捨てないでください。)


「そんなところは舐めなくていい!…わかった!わかったから!見逃してやるからその不快な動きを止めろ!!」


「ホントか!?う、嘘じゃないよな。嘘だったらお前の乳首を嘗め回すぞ。」


「嘘じゃないから絶対そんなことはするな!」


「やったのか、やったんだよな…俺。…ありがとう。見逃してくれて本当にありがとう。」


「や、やめろ。その鼻水まみれの手で握手しようとするな。…まったく、ここまで見苦しいヤツは初めて見たぜ。ほらさっさと俺から離れろ。どことなりとも好きに行く…が…。」


 心底呆れた科の様子でアインを追い払おうとしたゴブリンであったが、自分の頭部に違和感を感じ、言葉の途中で頭に手を伸ばす。

 そこには大ぶりのナイフが深く突き刺さっていた。

 ゴブリンはそれ以上なにも考えられず崩れ落ちるのだった。


「お、おいどうした大丈…。」


 仲間の異変に2人のゴブリンは慌てて駆け寄ろうする。しかし、それは叶うことはなかった。仲間に近寄ろうとしたゴブリン達は突如激しく回りだした視界に困惑する。

 目まぐるしいその光景は長いようで短いような不思議な時間間隔をゴブリン達に与えたが、やがてそれも終わりを告げる。

 ゴブリン達が最後に目にしたのは仲間に駆け寄ろうとする首のない自分の体という奇妙な光景であった。


「いったい何が…?」


 突然の事態にアインは状況をまったく飲み込むことができなかった。自分を見逃し言ったゴブリン達は一瞬で物言わる死体に成り果てた事実を受け入れることができなかった。


「亜人とはいえ仲間を見捨てたあげく、命惜しさにゴブリンの足をなめるとはな。見下げたやつもいたものだ。」


 呆然とするアインだったが急にかけられた声に我を取り戻し、声がした方を慌てて振り返る。そこにはアインを見下したように視線を送る一人の冒険者らしき人物の姿があった。


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