05話 いざ静岡
「遅かったなアイン。依頼は無事受けられたのか?」
酒場から出たアインを迎えたのは、思わず聞き惚れるようなバリトンボイスだった。アインは声がしたほうを振り向くとそこには柱にもたれかかりどこかと遠くを見つめるような顔したゲロ助がいた。
「まあな。あと格好つけるのはいいが口元に藁がついてるぞ。」
「…指摘ありがとう。今後は気を付けよう。それで依頼内容はなんだ?私は誰と戦えばいい?ワイバーンか?ヴァンパイアか?君が望むなら魔王すら屠ってみせよう。」
そういうとゲロ助は腰に差した剣を手に取り、華麗な剣裁きを披露する。
「意外とうまいんだな。…そういえば俺と戦ったとき、お前剣使ってなかったけどなんでなんだ?」
「…初陣でな。君がいきなり目の前に出てきてテンパっていたのだ。」
「初陣だったのか…。俺はてっきり魔王軍の名うての戦士かと思っていたのだが。」
「…炊飯係だったのだが、人手が足りないと急きょ呼ばれてな。…万が一に備え、剣の訓練だけは受けていたからな。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
(あの…お二人とも黙って見つめあっていないで、そろそろお仕事の内容について離しませんか?)
「そうだな、アルトセリアさんの言うとおりだ。今回の依頼、それはお茶だ。」
「お茶?さすがの私もお茶相手に戦った経験はないが…?」
「お茶相手に戦ってどうする。飲むんだよ。茶葉をもらってこいさ。静岡※まで行って。」
※ファンタジーの世界観を大事にするのなら、独自の地名を用意するべきなのかもしれません。しかし、それは作者の記憶力を超える危険性がありますのでこの物語では日本と同じ地名を使用します。オッケー?
「静岡か…隣の県だな。しかし、お茶の茶葉くらい通販で取り寄せられるだろうに、」
「なんでも静岡で魔王軍の活動が活発らしく、商人もお手上げなんだそうだ。それで冒険者にお鉢が回ってきたというわけだ。」
(お茶のことはどうでもいいですが、私としても魔王軍のことは気になります。)
「アルトセリアさんもこう言っているし、ゲロ助も異論はないな?」
「私としては静岡に行くことに異論はないが…。お前の家財道具はどうするんだ?」
「そんなもん家に置いておけばいいだろ。」
「その家を追い出されたのを忘れたのか?」
「あ…。」
「忘れていたのだな。あきれた奴だ。」
「あ、アルトセリアさんなんとかできないか?」
(すみません、家具の持ち運びに関しては私も疎くて。)
「そんな!」
「女神様もこう言っている。諦めて売り払うのだな。」
「…持っていく。」
「正気か?アイン!家財道具を抱えたまま旅をするなんて、私たちには荷が重いぞ。」
(荷物だけにですか?やだ、笑いが。アハハハ。面白い!)
「め、女神様私は決してそのようなつもりでは…。」
「うるさいぞお前ら。俺が持っていくと言ったら持っていくんだ!さあ行くぞ。」
そういうとアインはそばにあった箪笥を背負い歩き出してしまう。ゲロ助はあきれたように手を広げた後、ベッドを担ぎアインの後を追うのだった。