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01話 神の力を手にした男

「以上が依頼の顛末だ。」


 男はそう言い切ると、手に持ったグラスを一気にあおる。そしてどうだといわんばかりにカウンターの中年男性を見つめるのだった。


 男の名前はアイン。この物語の主人公である。


 中年男性の名前はラインハルト=トリスタン=オイゲン=ハイドリヒ。ただのモブキャラだ。


「以上って…あんたね。それで結局荷物は届けられたのかい?」


「それはその…言っただろ?俺はくっそ重くて若干生暖かく妙な臭いを放つそれを担ぐとにおいが移りそうだったか引きずりながら町を出たんだが、その村を出てすぐ屈強な体格をした魔物が襲ってきて…。」


「ゴブリンの子供でしょ?見てたよ。あと一応依頼なんで品物は丁寧に扱って欲しいところなんだけどね。」


「う、うるさいな!ナリは小さかったけど、その実力はドラゴン並みだったんだよ。あれほど邪悪なオーラを放つ魔物は俺の冒険者人生でいなかったぜ。それで俺はゴブリンと生死をさまようほどの死闘を繰り広げてな。」


「うずくまる君がゴブリンに一方的に殴られているように見えたけどね。」


「そ、それは…。いい一般人の君にはそう見えたかもしれないが、あアレは達人同士の高度な駆け引きがあってだな…。」


「はいはい。それで、結局荷物はゴブリンに奪われてしまったと?」


「…結果だけを見れば、その意見に反論するのは難しいのかもしれないな。」


「それじゃ依頼失敗で6000円※払ってもらえる?」


 ※ファンタジーの世界観を大事にするなら独自の通貨単位を用意するほうがいいのかもしれませんが、それは作者の能力を超える恐れがあるため、通貨とか重さとかは日本の単位を使用します。いいね?


「俺が払うのかよ!?」


「そういう契約だったからね。それじゃご苦労さん。今回の結果はちゃんと冒険者ランクに反映しておくから。」


「もしかして昇格するのか?」


「君のその自信がどこからくるのか私は不思議で仕方ないよ。君のランクはもちろんC。最低ランクの冒険者のままさ。」


 ラインハルト=トリスタン=オイゲン=ハイドリヒはアインの手から6000円を受け取る。

 名残惜しそうに6000円を見つめるアインの姿を見たライン(以下略)はあきれたとばかり肩をすくめるのだった。


「言っちゃ悪いけどあんた冒険者に向いてないよ。早く田舎にでも帰って慎ましい生活を送ったほうがいいと思うよ。無理して冒険者なんて続けても碌なことはない。昔とは違って誰もが魔物と戦わなくちゃいけないわけじゃないんだ。5年前から魔王軍の奴らもおとなしいさ。…ってなんであんた急に得意げな顔しているんだい?」


「5年前か懐かしいな…。王都侵略を企む魔王軍四天王ゴクアーク。そしてそれに一人で立ち向かう俺と奴との壮絶な一騎打ち。」


 アインは何かを懐かしむように遠くを見つめる。そんなアインを胡散臭いものを見るような顔になるラ(以下略)であった。


「ゴブリンの子供に負ける奴が何をホラ吹いているんだよ…。」


「そ、それはその事情があってだな…。お、おれは強い奴に対して強いというか…相手が弱いと真の実力を発揮できないというか…。」


「はいはい、わかったよ。それじゃ今後も頑張ってね。それじゃどいてくれる?跡がつっかえているんだ。」


(名称略)の言葉にアインは後ろを振り返る。そこには苛立った同業者と思しき男がアインを睨み付けていた。

 アインは渋々といった様子で、その場を立ち去る。これ以上長引かせて後ろの男の怒りを買うようなことすればおそらくただでは済まないのがわかっていたから。


 何ともすっきりしない気持ちを抱えたまま、アインは自宅への帰り道を歩む。その表情は冴えなかった。


「結局6000円の出費か…。今週中に家賃97,000円を払わないとまずいのに…どうしよう?」

(その家賃を払うのを引き延ばしてもらうことはできないのでしょうか?)


 アインが思い悩んでいると、頭の中に美しい女性の声が突如響いた。


「先々月から家賃を滞納しているのに?無理だろ。」


 アインはその声に同じた様子もなく平然と答える。


(そうですよね…。)

「そうですよねじゃないよ!?こんなんじゃまたホームレス生活に逆戻りだ!もう嫌なんだ。人の靴をなめて金をもらう生活は!もうふざけんなよ。世界を救う力をくれるっているから契約したのに、もらった力じゃ魔王は瞬殺できるけど、魔王との関係性が薄い相手だと異常に弱くなるだと。どうしてこんな極端な能力にしたんだよ!アルトセリアさん!!」

(ごめんなさい…アインさん。)


 自らに宿る女神の申し訳なさそうな言葉にアインは思わず頭を抱えるのだった。いったい何を間違えてこんなことになったんだ?


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