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18話 予兆

(本当によかったのでしょうか?ゲロ助さんを置き去りにしてしまって。)


 夜が明け、森を出発して1時間が過ぎようとしていたころ、アルトセリアはポツリのアインに語りかけてきた。


 出発当初、ゲロ助がいないことに騒ぎ立てたアルトセリアは、アインに簡単に事情を聴くと、ゲロ助の軽率な行動を嘆くとしばらくは大人しくしていた。しかし、アルトセリアはゲロ助を見捨てることに抵抗を感じているのだろう。言葉の端々からも引き返したいという意図が感じられた。


「馴れ合うばかりが仲間じゃないさ、時には仲間を信じることも大事だぜ?アルトセリアさん。」


(ですが…話を聞く限りでは、無事だとは思えません。森の精霊たちはなぜかゲロ助さんを敵視していましたし、とうのゲロ助さんはそれに気が付いていない様子でした。おそらく既に…。)


 口すればそれが事実になってしまうような気がして、アルトセリアはゲロ助がたどったであろう末路については言葉を濁した。


「森の精霊に嫌われているって…アルトセリアさんの勘違いじゃないのか?あれだけ自信満々に愛されているって言ってたくせに、それじゃゲロ助の奴がアホすぎる。」


(いえ、あれは完全に敵視していました。殺意を感じるほどに…。)


 精霊の態度に恐ろしいもの感じたのかアルトセリアの声は冷え切ってた。それを聞いたアインは手を広げ、お手上げとばかりにポーズをとる。


「それじゃ余計に俺たちが戻るわけにはいかないな。…それに、死んでるなら死んでるで構わないさ。ゲロ助が死んだところで、アルトセリアさんなら生き返すことができるんだろ?」


(それはそうですが…。何度も生き返られるからといって命を粗末にするような考え方は感心しませんよ、アインさん。命は限りがあるからこそ、人は懸命生きようとするのです。それを忘れてはなりません。)


 アインの軽率な発言に思うところがあったのか、アルトセリアは厳しい口調でアインを窘める。アインは参ったな頭を掻くと、どこかおどけたように言い訳を口にする。


「魔王退治の緊急措置ってやつだ。少しくらい大目に見てくれ。ゲロ助を助けるために足止めを食らったせいで、静岡で魔王軍の犠牲者が増えちゃ意味ないだろ?俺が行けば相手次第では何とかできるかもしれないんだし。」


(それは確かにそうですが…。)


 理屈は分かっても納得できないのか、アルトセリアの言葉はとこか歯切れが悪かった。

 これ以上、話しても無駄だな。

 そう思ったアインは、無理やりにでも話題を変えることにした。


「それに、そんなに心配しなくてもアイツなら大丈夫だよ。なんだかんだいってしぶといからな。そのうち追いついてくるだろ。」


(アインさんがそこまで言うなら…わかりました。これ以上は何も言いません。しかし、意外にゲロ助さんのことを信頼しているのですね。)


 アルトセリアの言葉に、アインは少し照れたかのように頬を掻く。そしてそれを誤魔化すように意地の悪い笑みを浮かべるのだった。


「まあ、なんたって相打ちになった仲だからな。アルトセリアさんの呪いを受ける前の俺とさ。」

(祝福です!?まったく、失礼な!)


 アインの言葉に気分を害したのか、アインはそれきりアルトセリアの気配を感じることができなくなった。


「怒らせたかな…。」


「どうかしたのか?」


 アインの歩みが遅れていることを不審に思ったのか、前を行くティアは不審そうにアインに振り返る。


「いや、なんでもない。ゲロ助の冥福を祈ってただけだよ。」


「…そうか。やさしいのか鬼畜なのか判断に迷うやつだな、お前は。」


「単純な男より深みがあって、魅力的だろ?」


「それを魅力と感じる者に、私は恐怖を感じるよ。」


「男の魅力を理解するにはまだ早い…か。大丈夫、分からないものを怖いと思うのは誰だって同じさ。アンタにもそのうち分かるよ。」


「できれば遠慮したいな…。理解などしてしまったら、とても理性的に行動できる自信がないな。」


「意外と情熱的なんだな。嫌いじゃないぜ、そういうの。」


「…これ以上キサマと話していると頭がおかしくなりそうだ。すまないが、少し黙ってもらえるか?」


「そうだな、そういうことは時間をかけて変わるべきだ。背伸びせず、ゆっくりとな。」


 ティアはそれ以上、アインに答えることなく黙々を歩き続ける。


 おそらく照れているのだろう?アインはそう結論付けると、前を行くティアを微笑ましいものを見るかのように笑みを浮かべるのであった。


「静岡までもうしばらくかかりそうだが、これなら何とかやっていけそうだな。」


 アインは一人呟く。ティアと二人きりになって、関係がギクシャクしないかと不安に思っていたアインは心が軽くなるのを感じた。


 焦ることはない。静岡には確実に近づいている。いつもより少しだけ軽く感じる体が、それを教えてくれていた。


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