16話 女神の導き
「まったく、余計な手間をかけさせる。」
ティアは剣を収めると、目の前の物体をまるでゴミを見るかような視線を送る。彼女の視線の先に折り重なりボロボロとなったアインとゲロ助の変わり果てた姿があった。
「なぜ…俺の足を掴んだんだゲロ助…。」
「キサマが…足を…ひっかけるからだ…。」
(お二人とも自業自得ですよ。まったく!生きていたからよかったものの。ほらティアさんに謝ってください。)
「…わかりましたよ。えっとそのなんだ…ティアだっけ、俺には全く落ち度はなかったが、寛大な俺は形式上、お前に謝罪をしてやろう。ほら、許せ。」
「どうやら、まだ斬られ足りないようだな。お前は。」
ティアは再び、剣を手にし、鞘から抜こうとする。
「まて、俺が悪かった!すべては俺の戯言です。お許しくださいティア様!」
その様子にアインはたまらず飛び上がると、頭を地面にこすり付け、ティアに服従の意を示した。
「まったく、なんて無様な姿だ。ティア殿。このような愚か者、一思いに始末してはいいかがでしょうか?」
あきれた様子で剣を収めようとしたティアに、ゲロ助は恭しい態度でそう助言するのであった。
「おい、クソガエル!なんでお前がそっち側なんだよ!」
「ふん、知れたこと。私が良しとするのは強さのみ!弱者でしかないキサマなど、とうに見切りをつけたわ!」
「なんだと!」
アインはゲロ助に飛び掛かると、二人はもみ合いになる。
(私は何か間違っていたのでしょうか?…お二人は悪い人ではありません。ありませんが…。どうして私はお二人を選んでしまったのでしょうか?)
アルトセリアの嘆きは、壮絶な泥仕合を繰り広げるのであった二人には届くことはなかった。
「お前ら、いいかげんにしろ!貴様らのみっともない戦いで、敵に見つかったらどうする!静かにしろ!」
「「わかりました。」」
ティアの言葉に二人は戦いをピタッと止めると、直立不動の姿勢になる。
その様子を見たティアは頭が痛いとばかり、目頭を手で押さえるのだった。
「ティア様!ここは危険です。一行も早く街道まで引き返すべきだと愚考しますが、いかがでしょうか?」
「ティア様は止めてくれ…。なんだかバカにされているように聞こえる。ティアでいい。アインだったか?…その意見は正しいんだが、お前に正論を言われると何かもやもやしたものを感じるよ。」
「それは…もしや、恋ではないでしょうか?」
「恋愛には疎い方だが…。世の恋人たちがこのような気分を抱えているのだとしたら。私は同情の念を隠せそうにないよ。」
(安心してください。それは恋でありません。私が断言します。)
アインの戯言に、ため息ながらに応じるティアであったが、すぐに居住まいを正すと、今後の方針について切り出してきた。
「それで、街道を目指すのは私も賛成だが、正直ココはどこなんだ?オークとの戦闘や、貴様らを追いかけたせいで、不覚にも場所が分からなくなってしまった。」
「それならば、ご安心ください。おい、ゲロ助。」
「フフフ、どうやら私の出番のようだな。」
アインに促され、自信満々といった様子のティアの前に進み出るゲロ助。
「どういうことだ?」
「簡単な話ですよ、ティア殿。森と共に生きる我らトードマンは、木々に宿る精霊たちのささやきを聞くことで、森の出口が何となくわかるのですよ。」
「なんとなくか…?」
「まあ、およそ4割の成功率ですが。」
「それは信頼して大丈夫なのか?」
「まあ、ダメで元々ってやつだよ。ダメだったらそこのカエルを吊るすだけだ。」
「アイン!貴様。」
「はら、ケンカするな。はあ…。他に頼りはないし、仕方ないか。」
ティアの合意を得たゲロ助は意気揚々と森の中進みだす。その後ろを仕方ないといった様子でティアも、ゲロ助について行くのであった。
「うーん、右ですな。たぶん!」
(ゲロ助さんそっちじゃないです!?戻ってください!ダメです、そっちは崖です!お願いだから、私の話を聞いてください!)
6割の確率で間違った道を選び続けるゲロ助に、アルトセリアが四苦八苦したのは言うまでもない話であった。