12話 再会
「またここに戻ってくるとなあ。今日何回目だよ。」
仲間を募るために再び酒場にやってきたアインは、看板を見ながら飽き飽きしたように呟いた。
(そうぼやかないでくださいアイン。依頼を無事成功させるために必要なことですよ。)
「はいはい、わかってますよ、アルトセリアさん。やればいいんでしょやれば。」
(もう、ふてくされないでください。)
「ちょっといいか、アイン?」
「どうしたゲロ助?」
「悪いが私は外で待っている。また厄介者熱いをされてはかなわないからな。」
先ほどのバーテンの扱いを思い出したのかゲロ助は渋い顔しながらそんなことを言い出した。
「それもそうだな、りょーかい。それじゃ俺一人でいってくるよ。」
「幸運を祈る。頼んだぞ、アイン。」
ゲロ助に身振りで答えながら、アインは酒場の入り口を潜る。店の中を見渡すとバーテンダーの男が誰かと言い合いをしているようだった。
「先客か…。こっちは急いでいるのに。なんとか横入りできないかな?」
(ダメですよ、アインさん。順番はちゃんと守らないと。)
「ちょ、ちょっと思っただけですよ。」
(もう、アインさん、ずるしてはいけませんよ。)
「分かりました、分かりましたよ。並べばいいんでしょ並べば。」
アインは叶わないとばかりに手を挙げると、そのまま空いてるカウンター席に適当に腰を下ろした。
「マスター、次よろしく頼むよ。」
「ああ、アインさんですか。すみませんがもう少し待ってください。いま別のお客様の対応中でして。」
「早めに頼むよ」
バーテンダーに適当に手を振り答えたアインであったが、不意に視線を感じ、そちらに顔向ける。
そこにはアインの睨むように見つめる先客の姿があった。不審に感じたアインは先客の顔を覗き込む。
「あ、あんたさっきの。」
見覚えがある顔にアインは思わず驚きの声を上げる。そこには先ほどアイン達を助けた女冒険者の不機嫌そうな顔があった。。
「また、お前か。うっとうしい。」
「うっとうしいとはなんだ。うっとしいとは!」
(ケ、ケンカ腰は止めてくださいアインさん!仲良くてください。)
「あれ、アインさん。ティアさんとお知り合いなんですか?」
ティアと呼ばれた女冒険者とアインが顔見知りであること意外に思ったのかバーテンダーはアインに尋ねてきた。
「ちょっとな、コイツがさっきゴブリンに襲われ、尻に棍棒を突っ込まれているところを俺たちが助けてやったんだ。」
(あ、アインさん何か間違っています!それも致命的な何かを!!)
「何を言っているのだ貴様は!?」
ティアは慌ててアインに駆け寄ると首を締め上げるが、遅かった。
「へえ、ゴブリンになあ。」
「そんなに簡単に信じるなよ。よく見ろよ。アイツの冒険者ランクはAランクだぜ。ゴブリンごとにそう簡単に負けるかよ。」
「わかんないぜ?もしかして、自分からゴブリンに尻を差し出したんじゃないか?」
「おいおい、マジかよ!?あんな強気な顔しておいて、本当はいじめてほしいってか!俺ちょっと興奮してきたぜ。」
話を聞いていた酒場の連中は、いやらしい笑みを浮かべ好き勝手なこと言いながら、ティアに好奇の視線を送る。
「ま、待て…ち、違う!私じゃない。私がそのような痴態を演じる訳が…や、やめて!違う…違うの!違うって言ってるじゃない!!ねえ止めてよ。止めてって言ってるじゃない!」
ティアは思わずアインから手を離すと、涙目になりながら必死に弁化するが、その対応は逆効果だった。
「あれ見ろよ。泣いてるじゃねえか、初めは冗談かと思ったが、あの態度はなんかマジっぽいぞ。」
「ああ、俺もそう思うぜ。かわいそうにゴブリン共の慰みものになるなんてな。ぐへへ。」
「おいおい、そう言いながら顔が嫌らしいぞ。」
「ち、ちがう。これはその…泣いてない。泣いてなんかないんだから。」
目じりを必死にこすりながらティアは必死に弁解を試みるが、まるで効果がなかった。
ティアの肩を叩くと、アインはやさしく語りかけた。
「無理するな。…辛かったんだろ。」
「お前がーーーーー!!!」
アインの言葉に抑えていた感情の限界を迎えたのか、ティアは半狂乱のままアインにつかみかかると首を絞めかかる。
「く、くるしい。ギ、ギブギブ。」
(アインさん!?大丈夫ですか!しっかりしてください。アインさん!)
「黙れ貴様は…貴様のせいで。私が…私は!」
アインの首を絞めつけるティアであったが、事態を面白そうに伺う観衆の視線に気が付き冷静さを取り戻し、アインから手を離した。
「ぐへ。」
「くっ…ここではダメだ。場所を移すぞ。」
ティアはそう言うと息も絶え絶えなアインの首根っこを無理やり掴み強引に引きずりながら酒場を後にするのであった。




