10話 リスタート
「結局、戻ってきちまったな。」
ゴブリン達の襲撃を受けたアイン達は、町に引き返していた。
(しょうがないですよ。ゲロ助さんの治療のためなんですから。ゲロ助さんもう少しの辛抱です。つらいでしょうけど頑張ってください。)
「女神さま…!なんとお優しいお言葉!ゲロ助は感動致しました。」
「祈りをささげている場合かゲロ助。ほら、急ぐぞ。早いとこ依頼に戻らないといけないんだからな。ほらしっかりベッドを担げ。」
「けが人になんてものを持たせるのだ。まったく、貴様は鬼か?」
箪笥を担いだアインに急かされた、ゲロ助は渋々ベッドを担ぐ。
ボロボロの二人は治療のため町はずれの病院を目指すのであった。
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「ふざけんなよ、カエルの尻の治療に10万ってどういうことだよ!!」
病院で治療を終えたアイン達であったが、その請求金額を聞いたとたんに驚きの声を上げ受付の女性に食ってかかった。
「大きな声を出さないでくださいよ。…いいですか?アインさん。アインさんは冒険者組合の保険に加入していませんよね。」
「当たり前だ。月に10,000円も組合費を取られるんだぞ!そんなぼったくりに許せるか!」
「ぼったくりじゃではないんですよ。いいですか?冒険者組合はこうゆう怪我をした場合、治療費を9割負担してくれる良心的な組織なのです。どうして冒険者になったときちゃんと加入しなかったんですか?」
「…じゃあ、今から入るから手続してくれ。」
「怪我した後では遅いんですよ。」
「そこを何とかしてくれ。97,000円の家賃すら払えず追い出された俺にそんな金あるはずないだろ。なんだよ10万って!俺の住んでいる場所は、カエルの尻の穴よりも安いって言いたいのか!」
「そんな意図はないですよ。変な言いがかりは止めてください!…まったく仕方ないですね。とりあえず、治療費の代わりにアインさんの持ち物は全て預からせていただきます。3ヶ月の間は保管しておきますので、早めに払ってくださいね。」
「…3ヶ月過ぎたらどうなるんだ。」
「治療費の足しにするために売り払います。」
「そ、そんな。」
受付嬢は職員たちに声をかけ、アインのベッドと箪笥をどこかへと運び去ってしまった。アインはその様子を悔しそうに見ているしかなかった。
「さすがに剣まで取り上げるとお仕事に差し障ると思いますので、それは勘弁してあげます。それではお大事に。」
そう言って受付嬢はアインを追い払う。アイン言い返す言葉が見つからず力なくうなだれるとその場を後にするのだった。
「その…私の治療のためにすまない。アイン。」
「…別に気にすんなよゲロ助。…静岡に行くための余計な荷物が無くなってかえってよかったのかもしれない。」
(そ、そうですよ。二人とも元気を出してください!今は依頼を成功させることに集中しましょう。依頼が成功すれば、ゲロ助さんの治療費もアインさんの家賃も全部解決じゃないですか。)
「…依頼の成功料は5万だけどな。」
(…ごめんなさい。)
「謝らないでくれよ、アルトセリアさん。謝られると惨めな気持ちになる。」
カエルの尻を直すために全てを失ったアイン達。彼らは失意のまま病院を後にするのであった。