その8
そうだ。これは、夢だ。
ベッドの上で上半身だけを起こした状態でそう判断する。
いやぁ、ほんとすぐに目が覚めてくれないかなぁ。
“ちょっと、無視しないでください。あなたには、聞こえているはずですよ、正義くん”
ああ、僕の名前呼ばないでくれ。
それじゃあ、僕に対して話しかけてるみたいじゃないか。
“うん、話しかけているんですよ”
……心を読まれた。
この声は、音源からの刺激が鼓膜を震わせて聞こえているわけではなく、直接、脳内で響いているようだった。
否、心の声が勝手に暴走したという方が近い。
しかも、タチの悪いことにすべて心を読まれている。
なぜ、心を読まれているのか。
“それは、脳に直接話しかけているからです。私の本体はあのカバンの中にありますよ”
もう正直何も考えたくない。
頭痛が痛い。
“頭痛は(頭が痛い)という意味なんで痛いは、要らないですよ?”
小さな親切、大きなお世話。
余計に頭痛くなってきた。
ってか何?考えたくないこの状況で、ふと思ったんだけど、どうやって脳に直接話しかけてんだろう。
“いい質問です”
いや、質問してねえし。
“実は私はあの本体のままでは、喋ることができません。ですから、自分の本体の一部を正義くんの脳内に…”
「いやぁーー!!?今すぐ体から出て行け!早く!」
僕は、訳がわからなくなったフリをして嫌なことから逃げるためにベッドの上で叫び、暴れ回る。
“そんなに嫌でしたか?それでは、脳内から出ますが、意思の疎通は出来なくなります。大丈夫ですか?”
大丈夫なもんか!こっちはもうパラサイトされてんだぞ!もう無理だ…諦めるしかない、と混乱した僕は思考してしまった。
自分のとは別の、女のショボくれた心の声の提案に気づくことなく…。
“!じゃあ、このままでいいんですね!”
ああ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
どのみち自分の体に入ったものをどうすることはできないんだ…
んっ?今何か聞き逃した様な…
“よろしくお願いします!もう、自己紹介は済んでいると思いますけど、私、サ・ラミって言います!これからよろしくお願いします!”
当然の如く、僕の混乱した思考にその挨拶は届かなかった。