その4
なぜ、そんなにもあの美少女に固執しているかというと話せば長くなるのだが、短く端的にいうとそういうシチュエーションに憧れていたからだ。
というわけで、本日2回目の下校をするために、校門を出て左手に行こうとすると、行き止まりになっていて、テレビなんかでよく見るブルーシート、赤いコーンで道が遮られていた。
まあ、そのまま真っ直ぐ進めるわけがなかった。
近くには、「キケン!近くな!道路陥没、原因調査中」とマジックで汚く書かれた工事の時に出るような看板が置いてあった。
しかし、僕はあのミンチを何としても手に入れなければならない。
とりあえず、ブルーシートの中を確認するためにブルーシートをめくると、
「こら、君なにしてるんだ!ここは危険だってかいてあっただろう!」
「ごめんなさい!」
中にいた人に怒られてしまった。
中の様子は、作業着を着た人がほとんどで、僕に注意した人も作業着だった。
しかし、あの穴を囲んでいたのは二、三人のスーツ姿でヘルメットを被ったザ・お役人みたいな人であった。
そしてあのカプセルは……なかった。
「しまった。こんなに早く見つかるなんて…」
このままだと折角掴みかけた主人公カードをみすみす逃してしまう。
いや、もう手遅れか…あそこまで厳重に確認作業をされたら、肉片ひとつの残らないだろう。
あぁ、どうせならと、妄想が止まらなさそうだったので、頭を左右に軽く振って、邪念を捨て去った。
遠回りになるが、仕方ないので回れ右をしてトボトボと帰ろうとすると、
バタン、
「あっ、須藤くん。ごめん…」
「………」
知り合いと肩が当たってしまった。
なぜ咄嗟に言葉が出なかったかと言うと、同じクラスでありながら一度として話したことが無い女子であったからだ。
それだけでは不思議に思うだろう。
まあ当然それだけではない。
言葉が出なかった真の理由は、目の前のこいつが、漫画研究会いわゆる漫研という部活に所属していて、地味な見た目に暗い性格、何よりいつも俯いていて、見ているだけで嫌悪感が湧いてくる女だからだ。
「…すまん」
やっとその言葉が出た時には、二人とも体勢を立て直してしばらく経った後だった。
その後は気まずい沈黙が流れる。
「あの、その須藤くんもその…補習なんだね…」
先に沈黙を破ったのは、向こうの方だった。
僕は、何にも言わずその場でただ突っ立ているだけだった。
しかし、そいつは何か確認するような、喉につっかえたような一人話を続けた。
「こうやって面と向かって話をするは…久しぶり…だね…?」
いや、僕は話してないし、会話は成立していないように思えるが?
「私…頭…悪くて、補習…食らっちゃった…」
僕は沈黙を貫く。
もしこれが、百歩譲って自分にデレたヤンデレ系美少女なら、確かにドキドキのシュチュエーションだろう。
しかし、相手は、見た目も地味なら中身も地味な喪女であるためドキドキどころか、殺意が湧いてきた。
あまりにも腹が立ったので、放って帰ることにする。
「あっ…話…長かったね。ごめん…。ばいばい…」
その喪女を無視するように歩き出すと後ろから、頼りない声でその言葉が紡がれていた。
僕は聞こえていたが、当然のごとく何の返事も無しにその場を後にした。
喪女こと、西条絢香との奇妙な会話は、これで終わり。