その1
「なっ、なんだよこれ」
陽炎の揺らめくアスファルトをえぐるその氷塊は周りに冷気を纏い、その細部は霧のヴェールに包まれていた。恐る恐るその物体に近くと、
「ごくっ」
漆黒の長い髪に、陶器のような肌、開けば可憐であろう瞼、瞼を飾る長いまつげ、はっきりした鼻筋、冬の寒い日の紅潮した頬、
そしてその頬よりも紅い唇…
体は、見たことない衣類(腰より下は地面に埋まっていてよくわからない)で包まれていたが、明らかなスタイルの良さが際立つっていた。
「もしかして…、もしかしてもしかしてもしかしてっ!!主人公カードキターッ‼︎⁉︎神様ありがとう!!」
思わず、叫んでしまった。それほどにこのどこにでもいる普通の高校1年男子にとってテストの暇な時に妄想するようなシチュエーションは魅力的であったのだ。
しかし、このままではトラックの運転手や野次馬と化した通行人によって通報が入り、なんやかんやでこの子は役所の人間に連れていかれ、国の研究機関で解剖されたりで一生俺の運命と交わることはないだろう。
そこで、とりあえず校門の左手を少し歩いた後にある人気の少ない公園に運ぶことにした。
まず、道路に刺さった氷塊を何とか引き抜き、蚕の繭のような形状のそれを、雪だるまを作る要領で転がそうとする。まあ転がすと中の子は揺れや回転で相当気持ち悪くなるかもしれないが、しかしこんな人一人分の氷塊を一般帰宅部高校生が軽々抱えられるわけもないのでそこは勘弁してほしい。氷で霜焼けにならないようにカバンを盾にしてその氷塊を力強く押した。
結果として、俺はその氷塊を動かすべきではなかったのであろう。
氷塊を蚕の繭と評したがやはり転がすには無視できないほどの凹凸があり、一回転する前につっかえて力強く押すと勢いよく転がった。
そして地面に打ち付け、そこから氷にヒビがはいり…、
氷塊は真っ二つに割れてしまった。
「やっちまった…。あの子のも氷同様に凍っていたなら…。やばい、俺、主人公生活どころか人生終わるじゃねーか!えっ?なんか…」
しかし、よく見ると全て割れたわけでなく中から錠剤みたいなカプセルの中ですやすやと眠っているような少女が露わになった。
邪魔な氷がなくなった彼女はあまりにも美しく、僕はさらにきれいな彼女をまじかで見ようとカプセルに触れてしまった。
プシュゥーー
カプセルが縦に開いた。
「………」
暫く、冷たく白い霧がどこからともなく湧き出て彼女の全身をウエディングドレスのヴェールの様に覆っていたがだんだんと晴れていく。
そして目の前には…
ミンチがあった………