その15
殺される…
僕はそのことが頭ではなく体で理解できた。
目の前の壁についた一際大きい肉塊床にビダンッと落ちた。
あはは、終わった、終わった。
なんだ、脳を乗っ取られたのも死んだなら関係ない。
それにお金なんてあっても仕方ない。
ゾンビ軍団に追いかけられたのだって今考えたら、今まで行ったことのない、ユ○バや東京のハロウィンのような体験ができた分、ラッキーじゃないか。
わが人生に一片の悔いなし。(混乱)
“ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました。このままでは、正義くんが…”
「じゃあ、お前に何が出来るって言うんだよ!」
逆ギレだと思いながらも、どうしても死を前にして冷静を保っていることができなかった。
ギャグ漫画のように吹っ飛ばされて終わるわけがない。
確実に血は見ることになるだろう。
まさか、自分が一時の快楽を求め、身を破滅させると言うのを身をもって実感するとは思わなかった…。
奥歯ががたがたと鳴り、真夏の夜で暑いはずなのに自分で自分の体を抱いていた。
“本体さえあれば。この事態、何とかしてみせます。ですから正義くんの部屋から私の本体を持ってきてください”
藁をもすがる状態だった僕は、頭で賛同するよりも前に引き寄せられるように自分の部屋に駆け戻った。
自室の扉を開くと、夜であるにもかかわらず明るく電気がついている。
さっき荷物を置いた時に消し忘れたのかな。
すると部屋の隅で誰かが屈んでいるのを見つけた。
恐る恐る近づくとなんとそれは、母であった。
ただうずくまるだけではなくて、体が震えている。
なぜ母がいるのか、母に一体何があったのだろうか。
なにひとつわからなかったが、ひとつ嫌な予感が湧き起こってきた。
確か、今母がいるところに荷物を置いたままだったような…
嫌な予感は止まらないが時も止まらない。
すると急に母は立ち上がってこちらの方に歩いてきて僕の肩をつかみ、
「マサくん、辛いことがあったらお母さんに言うのよ!」
というと、部屋から出て行ってしまった。
たっ、助かった。
あは、アハハ、ヒヒヒ……
やったっ!やったぞ!
“正義くん、気持ち悪いです…”
「………」
……、返す言葉もございません。
というわけで、僕の人生(約16年間)史上最大の危機を呆気なく乗り越えたわけだが、まだ問題も残っている。
「ハンバーグを作らなきゃ」