その12
あの数時間後、僕たちは家の近くの商店街に来ていた。
僕が住むのは○○県の薬丸村という県内唯一の村である。
村というと、棚田があり民家がぽつぽつ、あと全部山というイメージが強いだろうけど、ここは違う。
確かに山に囲まれているし、畑や田んぼもあることにはあるが、村はずれには大型ショッピングモールがあり、スーパーマーケットやコンビニは数多く散在している。
僕の今いるこの商店街は薬丸村発展のシンボル的立ち位置の建造物である。
シンボルというのは、ここを起点に薬丸村は飛躍的に経済活性化したことから由来している。
冒頭に僕たちと述べたが、それは友達とショッピングしているとかそういういうことではなく、あのミンチと一緒に来ているからだ。
そのミンチは今、家から持ち出したスポーツ店のような不透明の手さげビニールに入っている。
なぜ一緒にいるかと説明するのにはあの母とのやりとりまで遡る必要がある。
数時間前、母はなぜ部屋に肉を持ち込むという奇行をしたのかということに全く興味を持たず、ハンバーグの注文をするとさっさとリビングに行ってしまった。
それはありがたかったが、とっさの言い訳だったので、肉を含めたハンバーグの材料をすべて用意するところから始めなければいけなかった。
という訳で、冷蔵庫にあった卵以外の材料肉、玉ねぎを買いに行くことにした。
すると、なんとあのミンチが自分も一緒に行くというのだ。
外の世界をもっとよく知るためだと主張していたが、僕は当然こんな不審物を持って外を出回る気にはならなかったので、断じて首を縦に振らなかった。
しかし、このミンチは要求が通らなければ、正義くんの全身にまとわり付きますと僕を脅し、妥協に妥協を重ね、こういう形に落ち着くようにもっていった。
ああ、もう、こいつハンバーグの材料に使ってもいいんじゃないかなぁ〜玉ねぎなくても卵あるし大丈夫じゃねという考えが一瞬頭の中よぎったが流石に家族に人肉は食わせらせないってあれそういう問題だっけ?
まあ、そんなこんなで今に至る訳だが、今は回想前から少し移動して八百屋の前にいる。
商店街の入り口付近に肉屋はあるが、店前が肉を買うであろう人たちで混雑していたので八百屋の方を先にした。
野菜を一通り見て周りにおつかいを頼まれてきたんじゃないぞという風なアピールを周囲にして適当に手に取った玉ねぎを八百屋のお兄さんに渡す。
会計を済ませる。
そもそも、スーパーマーケットが多いし、その中で商店街よりも家から近い店もあるが、何せ母はたとえ貧乏でも『食』だけは良いものを選ぶ。
その影響か少し遠出になるが、野菜を買うときは商店街に来るのが習慣になっている。
八百屋ですることはなくなったので、立ち去ろうとすると、八百屋のお兄さんに呼び止められた。
「なあ、兄ちゃん。今日は肉屋がなんか知らんけど異様に繁盛してやがるなぁ〜。なんかあったんかな〜」
「はあ。特売じゃないですかね」
「でも、こんなに繁盛したのは見たこととねえな。兄ちゃんもだろ」
「まあそうですね…」
この八百屋は老舗ではない。
このお兄さんが1代目、さらに開店5周年を今年迎えようかというところだ。
そうこの薬丸村の発展は8年前ぐらいから急速に始まった。
このお兄さんはこの商店街ができた頃からここにいる。
そういう訳でこのお兄さんは肉屋を、開業から今に至るまで見ているらしい。
こんな繁盛は初めてだというのだが、僕にとってはどうでもいいことなので軽く流し、その場を後にした。




