プロローグ
高校生の時に書いたものを今書き直しています。
謎の氷河⁈
【2022年4月25日、太平洋の日本沿岸にて何の前触れも無く、その物体は現れた。―酸化二水素、DHMOの固体、通称『氷』である。(以下便宜上氷と読むことにする)温暖な太平洋に突如現れたそれは氷であるということ以外に特異な性質を持ち合わせていた。
・北極海の氷には及ばないが、日本国土をすっぽりと覆い被せるほどの規模であること。
・表面近くは気泡やNaClにより白色であるが10メートルほどの深さまで掘ると紅く全体で見るとルビーの原石のようであること。
・紅きその内部には空を舞う蟻のような黒い斑点があること。
われわれエム―取材班は静岡環境女子大学農学部地球環境科学科の特任教授岡村氏に取材を申しー
俺はあまりにも胡散臭すぎる大学の偉いさんのインタビューに興味をそがれ、年季の入ったSF月刊誌を元あった場所に戻し、学校の図書室を後にした。10数年前に世間をにぎわしたニュースを扱った記事だった。氷河期に凍ってしまった哺乳類群が日本近海で見つかったというものだ。すでに化石での研究で生態やらが判明していた生物群らしく、特に新たな発見もなく、世間は他のニュースに関心を移していった。幼いころの事件だったので詳しくは覚えていない。俺は図書館を出る。
廊下というものは男子学生の猥談やゲーム談義、女子学生の恋愛トークなどが雑草のように生え盛っているものだが今は除草剤でも撒かれたかのように静かである。
蝉の鳴き声もピークを迎え蟻に緊急搬送される個体も出るようなこの暑さで浮かれた輩による恋愛で溺死しそうな海水浴日和であるのに、俺、須藤正義は学校にいる。なぜなら、先日行われた入学してから初めての大学適正テストの校内順位でブービー賞を取ってしまったからだ。ともかく、補習を食らってこの夏休みの盆明け1週間は毎日欠かすことなく9時5時で自習していなければいけないのだが、残り2時間残っているというところでサボって図書室にて時間を浪費していたのだ。
「あぁ、だりぃ。もう帰るか」
補習の時間はまだ残っていたが、図書館ではこれ以上暇をつぶせなさそうなのでもう帰ることにした。
「暑っ、もっと学校にいればよかったな」
学校の各教室のクーラーは28℃に設定されており、生徒たちは皆一様に暑いと訴えていたが、外に出ると28℃の恩恵を感じられるくらいには暑い。校門から出て左に曲がると等間隔に並ぶ街路樹の列があった。木にとまった目の高さにいる一匹のうるさく鳴く蝉をしかめっ面で見ていた。
セミは交尾するためだけに鳴いているのだろうか。俺たち人間の聴力を奪うための敵性地球外生命体ではなかろうか。
さっき読んだ雑誌と暑さのせいでそんなオカルトじみた考えさえ浮かぶ。
「んっ?何だあれ?」
ふとセミから目をそらし、空を見上げると学校の屋上よりずっと高いところから太陽の涙みたいな眩い光の宝石のようなものが空に浮かんでいるように見える。
というか、
「なんか、こっちに落ちてきてないか⁈」
しかし、俺は暑さにやられたのか咄嗟に動くことができなかった。
ドコーーーーーン。
目の前を2トントラックが横切らなければおそらく命はなかっただろう。トラックは進行方向に向かって90℃に回転し、貨物部分はアスファルトの破片がぶつかったのかぼこぼこになっていた。
「っ!」
しかし俺はそんな惨状になったトラックよりも今クレーターを作った原因に目を奪われていた。
それは氷塊であり、中に人がいる?
それが、俺の最悪の夏休みいや、戦いの始まりである。