1 プロローグ
底抜けの宇宙がある。星々が遠く瞬き、未だ名も知れない惑星が無数に散らばる。星々の間を駆けるものは人の形をした兵器だ。
「幾ら強力なライフルだって、デブリを撃ち抜けなけりゃさ!」
デブリを盾にして、一機のMSが一条の光線から機体を守った。続くライフルのビームがデブリに穴を空けた。
飛び散ったデブリの破片に紛れるように、MS『コフィン』が姿を現した。
「そこッ!」
コフィンの右マニュピレーターの指先に、ブルーは操縦桿を操って指示を送った。ライフルのトリガーが引き絞られ、ピンク色の閃光が、飛散したデブリから機体を守ろうと盾を構えている敵方のMSをその左肩口から撃ち抜く。
爆散。融合炉の輝きは周囲のデブリを吹き飛ばした。ブルーは、その光景を見るや否や、けたたましいアラート音に足元のペダルを踏み抜いていた。急加速によるGが体にかかる。奥歯をキュッと噛みしめて、しかしそれでも目を閉じはしない。直後、コフィンが先程までいた所をビームが走った。
『ブルー!!』
通信はC-2、クレナイ駆るコフィンからのものだ。
「大丈夫。あちらにも反応の早いやつがいる!」
『来るぞ!』
クレナイによる援護射撃がモニターに映った。デブリ帯において、ライフルは射線を遮られることが多く、故に戦闘はMS同士による白兵戦がメインである。それでも正確な射撃をもって、クレナイはこちらを援護してくれている。
正面、その射撃を潜って、時にはデブリを盾にして、こちらに接近してくるMSがある。黒に塗装され、肩に髑髏のマーク。
ブルーはコフィンにデブリとデブリの間を行ったり来たりをさせ、牽制のライフルを撃ち続けた。
宇宙海賊のエンブレムが徐に光った。
「目くらまし!?」
その眩い閃光にブルーは目を閉じた。その一瞬の間に海賊のMS、『スクラップ』が接近してくる。目を開けると、腰から抜いたビームサーベルを構え突進してくるスクラップが目の前にいた。
「このぉ!」
振りかぶられたサーベル、接近してくるスクラップの懐に、ブルーは敢えて突っ込んだ。相手の戸惑いを肌に感じつつ、ブルーは左腕に装備されたシールドで相手のサーベルを持つ腕を押し上げた。そのままの動きでブルーの操るコフィンは、右のマニュピレーターで左の腰からサーベルを引き抜く。
一閃。横一文字に振りぬいて、機体を後方に移動させれば、上下真っ二つに分断されたスクラップがそこにあった。
遅れて爆発した機体を見つつ、ブルーは肩を揺らして荒い息を続けた。
『やったか?』
クレナイの声は安堵を孕んでいる。
「なんとか」
ヘルメットを外して額の汗を手で拭いつつ、ブルーは答えた。この宙域にはブルーとクレナイのコフィン、そして海賊が運んでいた貨物船があるだけだった。
「輸送中だったんだね。欲を出して僕らのシャトルに手を出さなければ、こうはならなかったのに」
ブルーは、宙を見た。浮かぶ大中小の破片は、デブリのものかスクラップのものなのか、判別は難しかった。
『欲が深いんだよ、海賊ってやつはさ』
貨物船を曳航するぞ、とクレナイの通信を聞いてブルーは広い宇宙から小さな貨物船に目をむける。海賊が大事に抱えていたこの貨物船に何が入っているのか、今はそれを調べなければならない。
「大きいね。運べるかな」
時代は宇宙世紀。宇宙開発と度重なる戦争に地球も宇宙も汚染され、人類はそれでも細々とその営みを続けていた。ブルーたちの様に巨大なシャトル、『シャトルコロニー』にて宇宙を清掃するもの。海賊の様に他人から糧を奪うもの。時代は行き詰まりを見せ、しかし彼らは懸命に生き延びている。