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異世界召喚されたのは、『元』勇者です  作者: ユモア
第3章 勇者と冒険者
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第42話 心の幻影





「この下らない時間も終わりだ」


 今の俺は、魔力偽装も実力偽装もかけてはいない。その状態で魔力を解放し、現在発動できる最高位の魔法を瞬時に構築する。


 イメージするのは、氷に閉ざされる大地。


 命も音すら氷の中に消えた、静寂だけが支配する世界。


「これって、〝氷閉する恩恵の大地フリージアス・ラ・クシャル〟!?」

「無詠唱で、第八階梯魔法なんて!」


 ……感じる。

 俺の力が、嘗ての勇者おれに近付いている。


 だが、何故だろう……。


 どうして、こんなにも虚しいんだ……。



 大地に巨大な魔法陣が広がり、魔法陣の光が増して行く。大地が凍てつき始め、急激な温度低下の為か周囲に冷気が流れる。


「リツェア、メデルを連れて離れろ!」

「今更、逃げれないでしょ」

「範囲が広すぎます」


 ヴィルヘルムの覇気の篭った声を発するが、2人は動かない。それを見て、ヴィルヘルムは肩を竦めるような動作を行なった。そして、覚悟を決め俺へと視線を移す。

 その目には、己が死地にいる事を理解していながらも強い意志があった。


 俺は、魔法陣を消す。


「何故、魔法を発動しない?」

「……お前達が、最後にどう足掻くのか、見るべきだと思った」


 ヴィルヘルムは、「そうか」と呟き右手に持つ槍を凍った大地に突き刺した。そして、合掌のように両手を打ち鳴らす。

 その瞬間、身体強化として全身を循環していた魔力が、一度腹の辺りに集まり、一気に全身から体表へと広がる。


「魔装〝迅雷〟」


 全身を覆い蒼白く発光する雷。 

 格上である俺を前にしても、動じない堂々とした姿と意志。どれだけの覚悟を持ち、この場に立っているのか、理解出来てしまった。


 だが、理解出来たからといって、理解し合う事は不可能だ。


「ガルルルル……行くぞ、トウヤ!!」


 ヴィルヘルムが、大地に刺さる槍を大きめの動作で抜き放つ。


ーーガキィィィン!


 瞬時に、目の前に移動していたヴィルヘルムの槍を剣で受け止める。


「速度だけなら一人前だな」


 魔装の速度をコントロール仕切れていない。だから、直線的な力任せの攻撃しか出来ない。


 若さ、と言えば聞こえが良いかもしれないが、俺から言わせれば未熟だ。

 せっかくの与えられた体格と戦闘の才能。そして、恵まれた血脈。その上、雷の魔装まで得ている。

 だが、肝心のヴィルヘルムが、魔装の速度に技術が追い付いていない。

 今のヴィルヘルムは、ただ単純に槍を振り回しているだけだ。


「くっ……!」


 槍に雷を纏わせた斬撃が、連続で放たれる。

 速度を調節し、巧みに槍を扱っているが、それでは、付け焼き刃にすらならない。

 寧ろ、魔装の速度を殺す事で、魔装の強みを失っている。

 ヴィルヘルムの雷を纏わせた斬撃を全て弾き返す。


 ヴィルヘルムの攻撃は、俺に届いていない。

 だが、おそらくヴィルヘルムの狙いは、俺の魔法を封じる事だ。

 距離を取られ、遠距離から魔法を撃ち込まれれば、ヴィルヘルムが圧倒的不利になるのは目に見えている。だからこそ、俺との距離を詰め、槍の長い間合いを活かして戦っているのだろう。


 だが、詰めが甘い。


「第五階梯魔法〝火柱ファイヤー・ピラー〟」


 俺とヴィルヘルムの間に火柱が立ち上がり、互いに距離を取る。


「ヴィルヘルムさん!」

「来るな、メデル」

「しかし、今の主の力は異常です!」

「分かっている……だからこそ、俺に戦わせて欲しい」


 これほどの不利な状況で何を考えている……。


 誰がどう見ても、ヴィルヘルムが劣勢だ。残りの2人に加勢して貰った方が、俺を倒せる可能性が僅かにでも上がる。


 理解出来ない。


「……分かったわ。今は、ヴィルヘルムに任せる」


 リツェアの言葉に、メデルは「危険過ぎる」と反論する。


「メデル、人には譲れない戦いがあるのよ。だから、ヴィルヘルムとトウヤを信じましょう」

「……分かりました。2人を信じます」

「?」


 俺を信じる、だと。何を言っているんだ……。


 意志の篭った強い3人の瞳。

 嘗ての俺と似ている。勇者だった頃の俺は、あんな目をしていた筈だ。


 今になっては、心底どうでも良い。


『………………違う』


 頭の中に、直接流れ込んで来る声とは違う。

 異世界ルーファスに戻って来てからの旅で、何度か聞いた声だ。

 嘗ての勇者おれの遺物が、語り掛けて来るような不思議な感覚。

 氷を溶かすように、優しく温かい。それでいて、決して揺らぐ事のない純粋な意志を感じる。


「トウヤ」

「……」


 ヴィルヘルムに名を呼ばれた。


「俺は……いや、これ以上の言葉は無粋だな」


 ヴィルヘルムは、両手で持っていた槍から左手を離し大地に付ける。体勢は獣のような前傾姿勢へと変わる。


「ガルルル!」


 低い唸り声と同時に、凍った大地が抉れた。


 一言で言えば、前方への疾走。


 だが、先程の速度より遥かに疾い。

 攻撃自体も雷を纏わせた突き、という単純な物の為に技術もそれ程必要としない。それ故に、鋭く、魔法を構築する隙がなかった。


「……予想よりやるな」


 そう、予想よりはな。


「ヴィルヘルム……。雷の獣王の血を引く男。お前は、俺が戦った幻獣種の中で最も弱い」

「!」

「第七階梯魔法〝氷閉領域フリージアス・テリトリー〟」


 領域が瞬時に凍て付き、ヴィルヘルムは魔装を強化し防ぐ。

 更に、俺は、氷閉領域を維持したまま、更に魔法を構築する。


「第七階梯魔法〝旋風領域ゼフィロス・テリトリー〟」

「「「!!?」」」


 凍て付く領域内に、吹き荒れる旋風が刃のような斬れ味を持って発生する。


「ぐぅぅ……」


 ヴィルヘルムの身体が凍て付き、旋風により斬り裂かれる。


 俺が行ったのは、領域干渉系魔法の複数同時発動。本来は、2つの魔法を同時に発動する事は、極一部の者達を除けば不可能な事だ。


「はぁ、はぁ……」

「どうやら、先程の攻撃は体への不可が大きいようだな」

「はぁ、はぁ、まだだ…!」

「っ!?」


 血を流し、勝てないと分かっていながら向かって来る姿が、深海や風巻と重なって見えた。


「……これも、けじめだ」


 俺は、剣を鞘にしまう。


「来い、トウヤ!」


 息が切れ、満足に戦えそうに無い状態でもヴィルヘルムは覇気の篭った声で叫ぶ。


「【暴食王ベルゼネス】」


 詠唱に応え、聖剣が顕現する。そして、左手を虚空へと伸ばし、神器を顕現させた。


「何だ、それは……」

「あ、あれは……」

「メデル!?どうしたの!」

「わたし、何も、知らない筈なのに……恐い!?」


 3人は、それぞれ神器から放たれるリンの魔力を感じ取り驚愕する。


「聖戦の時は来た 封じられし枷を破り

憎悪と憤怒を力へ変え 忌まわしき鎖を噛みちぎれ!

【神器 ヴァナル・ガンド】」


 俺の詠唱に応え、神器に絡み付いていた一部の鎖が弾け飛ぶ。


「ヴィルヘルム……お前の全てを俺が破壊する!」



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