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異世界召喚されたのは、『元』勇者です  作者: ユモア
第3章 勇者と冒険者
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第38話 忌まわしき森の女王



 〝氷閉領域〟を展開し、周囲から迫る魔物を凍り付かせながら、醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンに向けて駆け出す。

 醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンの足場を凍り付かせ、動きを封じながら剣を振り下ろす。

 醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンは、凍っていない鋏で攻撃を弾き、逆の蟷螂の鎌のような腕を振るう。


 鎌を風魔法を使って空中で躱す。そして、着地した俺は、即座に魔力を練る。


「第五階梯魔法 〝火柱ファイヤー・ピラー〟」


 炎の柱が、敵を包み込む。


「第六階梯魔法〝斬風の刃(エアスト・ブレイド)〟」


 風の刃を纏った剣が、鋏の結合部を斬り落とす。


炎の中で、醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンが悲鳴をあげる。

 だが、炎の中から出て来た途端に鋏が再生した。火柱も大したダメージにはなっていない。

 更に、与えた傷の再生と同時に蟷螂の鎌が、1本から2本に増える。


「鋏を斬り落とした程度では、大したダメージにならないな」


 醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンは、俺を倒すべき敵と判断したのか、俺に向け威嚇音を上げる。そして、蜘蛛の口から粘着性の糸玉を吐き出す。

 俺はそれを後方に跳んで躱し、魔力を練り上げる。


「第七階梯魔法〝火炎の渦(フレイム・シュトロム)〟」


 地面から炎が吹き上がり、醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンを中心に渦を巻いて身体を焼き尽くしていく。

 だが、雄叫びと同時に醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンが炎から抜け出し、周囲の魔物を喰らい始める。すると、負っていたはずの傷が先ほどよりも早い速度で回復していく。


「第七階梯魔法〝氷閉領域フリージアス・テリトリー〟」


 周囲の魔物諸共醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンを凍らせる。


「……くそっ」


 だが、徐々に氷に皹が入り弾け飛ぶ。

 更に、背中から現れた羽を震わせ、広範囲への衝撃波が放たれた。俺の体が僅かに硬直した瞬間に、鎌の腕の関節がゴムの様に伸びる。

 躱す事が困難と判断して、鎌の一撃を受け止める。


 衝撃波は、魔法で相殺出来たが、鎌の威力を相殺出来ず地面に体を打ちつけた。


「っ」


 直ぐに立ち上がり、追撃の鎌と鋏を躱す。


 第七階梯魔法じゃ、表面上のダメージしか与えられない。それに、この感覚『魔法耐性』のスキルも所持している。


 醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンの口から、広範囲へと蜘蛛の糸が放たれた。


「第七階梯魔法〝貫風螺旋(エアスト・ブレイク)〟〝斬風の刃(エアスト・ブレイド)〟」


 直線的な貫通ダメージを与える〝貫風螺旋(エアスト・ブレイク)〟が、蜘蛛の糸を貫き醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンを顔の一部を破壊する。更に、〝斬風の刃(エアスト・ブレイド)〟で俺に迫っていた蜘蛛の糸を斬り、そのまま醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンの鎌や鋏を斬り落とす。


 さっきよりも感触が硬くなっている事に、俺は顔を顰める。

 感触が硬くなっていると言う事は、スキルレベルの上昇や醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーン自体が成長している事を示す。

 どちらにせよ、最悪の状況だ。


 

 俺が剣を握る右手を強く握った瞬間、醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンの抉れた蜘蛛の顔に、雷を纏った拳が叩き込まれた。そして、空中に無数の黒い槍が出現し、降り注ぐ。


「第七階梯魔法〝黒槍舞う舞踏会ダーク・ランス・ダンシル〟」

「……来たのか?」


 視線を醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンから外さずに、両脇にたった2人に声をかける。


「当然だ」

「そっちこそ、勝手に行かないでくれる?」

「お前等が遅いだけだろ」

「ならば、その遅れを返させて貰う」


 ヴィルヘルムとリツェアが構える。


「行くぞ!」

「ああ!」

「ええ!」


 俺とヴィルヘルムは、剣と槍を構え走り出し、背後ではリツェアが魔力を練る。


「はぁ!」


 ヴィルヘルムが、魔装の速度を活かして醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンを槍が貫く。

 俺は 敵の攻撃を受け流しながら魔法で敵のタイミングをずらし反撃を許さない。そして、更に攻撃を畳み掛ける。


 リツェアの魔法で、着実にダメージを与えて行く。


 その時、疑似餌だと思っていた女性の形をした何かの口が動き喋り出した。


「…エサ……ドモガ、図ニ…乗ルナ!」


 その途端、周りの魔物の動きが活発になり、崩れた建物の物陰からベリュームに寄生された冒険者達が現れ攻撃してくる。


「す、すまない!」

「私達の事は良いから、敵を!」

「迷わず殺して、早く!」

「私達の事は気にしないで……」

「くそ、こんな事になるなんてっ」


 全員意識があり、ベリュームの数もそれほど多くはない。ただ、操られているだけの様だ。

 冒険者達が敵に参戦するが、操られている所為か動きが鈍く充分に対応は出来る。


 だが、後方の冒険者達が追い込まれていた。

 村人達を護りながらの所為で、魔物に押し込まれ過ぎている。

 特に、前衛の怪我人が多く、毒を持つ魔物への対応が遅れていた。

 メデルなどの回復系の魔法が使える魔導師が、駆け回って前線の維持に貢献しているが限界は近そうだ。

 

 猫の手を借りるしかない。


「少しだけ任せる!」


 それだけ言うと、2人から離れ冒険者達の元へと向かう。2人も分かっていたように、反論などは一切言わなかった。


「契約・召喚魔法〝影猫の王様(ケット・シー)〟」


 グリフォンの時よりも魔法陣は小さいが濃密な魔力の光を放ち、1匹のケット・シーが現れた。


「いやー……呼ばれて来たら、なかなかのピンチっすねー!俺っち1人より、村の皆に手伝って貰った方が良さそうっす!」


 見た目によらず頭の切れるラッセンは、余計な説明をしなくて良いので助かる。


「ゴロニャ〜ン、ゴロニャゴ〜!」


 まるで山彦をするように、ラッセンは数回鳴いた。

 すると、絵の具で塗ったような黒い丸が地面に現れ、少しの時間を得て魔法陣へと変わった。そして、広がった魔法陣から簡易的な武装をしたケット・シー達が次々と姿を現す。


「揃いやした、旦那!」


 ラッセンが俺に向かって敬礼すると、背後のケット・シー達もバッと音がするように息の合った敬礼をした。


「いきなりで悪いが、魔物の討伐を頼む」

「人を護る必要は?」

「それは人がやる。お前達は、ただ敵を倒してくれ」


 俺の言葉を聞いたラッセンは、獰猛な獣の笑みを浮かべ部下達の方を向く。


「皆、聞いた通りっす」

「「「「おーーー!!」」」」

「そんじゃ、狩りを始めやすぜ!!」

「「「「解体ばらすぜ!ヒャーハー!!!」」」」


 影から取り出した武器を持ち、ケット・シー達はそれぞれが3〜4匹の班に分かれ戦闘を開始した。


 影に潜ったり、気配を消しながらの奇襲を主とした戦闘方法。更に猫のような柔軟性と滑らかな動きから繰り出される正確な一撃が、急所を次々と捉えていく。その結果、驚くべき速度で、敵を追い詰め確実に数を減らしている。


「ラッセン、後は任せる。何かあれば、カシムに聞いてくれ」

「了解ですぜ」


 ラッセンの言葉を聞いた俺は、次に矢を構えるミルの元に向かう。


「雪!?」

「ミル、〝共風〟で皆に俺の言葉を届けられるか?」

「……可能」


 ミルは、少しの間思考を巡らせた後に頷いた。そして、指示通りミルが〝共風〟を発動させたのを確認した俺は、作戦を全員に伝える。


『全員、俺の声は聞こえているな』


 戦闘の中、数人の冒険者が俺へと視線を向ける。


『これから俺の考えた作戦を伝える。まず、部隊は村人を護りつつ敵を誘い込む。その時、空を飛ぶ魔物は、優先的に倒してくれ。ヴィルヘルムとリツェアは、そのまま醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンの足止めを頼む。そして、合図を出したら全員建物の中に退避しろ。最後は、俺が始末する』


 何人かの冒険者達が、俺に向かって何か叫んでいる。

 声は良く聞こえないが、『そんな事出来るはずがない!』とでも叫んでいるのは容易に想像出来た。


 

 嘗てもこんな事があったな……。


 あの頃の俺は、勇者として未熟だった。

 他を圧倒する力も、他人を惹きつける実績も何もなかった。

 ……それでも、俺は足掻き続けた。


 嘲笑されても、怒鳴られても、憎まれても、あの頃の俺は叫び続けた。


 今思えば、結局全て無駄な事だった。


『……本当に、そうなのか?』


 心の奥から、誰かの声が聞こえた。そして、無意識の内に、心の奥の声が俺の口を通し言葉となっていた。


『……俺を信じろとは言わないし、信じて欲しい訳じゃない。勿論、お前達の命を預かる事など俺には到底出来ない。だが…』


 まただ。

 前に一度ヴィルヘルムを救った時と同じ、懐かしく、最も俺が良く知る男の言葉だ。


『生きて勝つ為に、俺に全力で戦わせてくれ!』

「……雪」

「あいつ、」

「私達……助かるの?」

「やるぞ、俺はやる!」

「私だって!こんな所で死にたくない」

「やってやるっ、死んでたまるか!」


 先程まで絶望に囚われていた冒険者達の動きが、見るからに変化する。



 俺は、何であんな事を言ったんだ……。


 浮かびあがる疑問を戦闘に集中する為に、心の奥に押し込む。



 その際に、周囲の様子をもう一度確認する。


 ケット・シー達が参戦した為、戦況は持ち直し、互角となっていた。ヴィルヘルムとリツェアの方にもラッセンが参戦した事で、醜悪な女王混蟲パラサディア・クイーンとの戦闘は拮抗している。

 冒険者達への対応も殺さない程度に、2人と1匹は行っていた。



 俺は、呼吸を整えつつ魔力を練る

 空気を圧縮し、一気に解き放つイメージ。

 

 決して焦らず、膨大な魔力を支配する。


『退がれ!』


 ミルに再度〝共風〟を発動して貰い全体に合図を出す。それと同時に全冒険者が敵を牽制しつつ退避する。そして、ミルやケット・シー達も同時に退避する。


「数多の命を育み 恩恵を与えし大地


天より舞い降り 種まく冷徹なる使徒


昏き感情が種へと宿り 冷たき意志が放たれる


氷が大地を包み 汚れし者を拒絶する


氷閉されし氷の園に 真の静寂を導く


第八階梯魔法〝氷閉する恩恵の大地フリージアス・ラ・クシャル〟 」


 魔法の発動と同時に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。敵も建物も寄生された冒険者を含めて、地に足をつく全ての者が一瞬にして凍りついた。


 地に触れる敵に、逃れる術はない。

 痛みや苦痛を味わう間もなく、氷のオブジェへと姿を変える。


 第八階梯魔法。英雄級の魔力と才能を持つ者の一部が、到達出来る魔法の領域。

 その1つ、広範囲殲滅型氷属性魔法 〝氷閉する恩恵の大地フリージアス・ラ・クシャル〟。


 極限の集中から魔法を放った所為で、心身共に疲労感が体を襲う。それでも、目の前に広がる氷の大地と敵の魔力が消えた事を確認し、勝利の笑みが浮かぶ。


 建物の中から、凍り付いた扉を破壊して姿を見せる冒険者達は周囲の光景に、呆然と立ち尽くす。


「……勝った、のか?」


 誰かの声に、誰かが答えた。


「……勝ちました、よね?」

「……ん、勝った」

「俺達の勝利だ!!!」


 カシムの勝どきを上げると、周りの冒険者達もそれに応えるように、自分の武器を天へと掲げ勝どきを上げる。


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