表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚されたのは、『元』勇者です  作者: ユモア
第3章 勇者と冒険者
64/73

第36話 忌まわしき森の女王




 調査村の集会所。

 村が襲われる前まで、会議や怪我人を一時的に休ませる為に使われていた広めの建物に、今は大勢の人間が押し込められるようにして入っていた。そして、集会所ほどではないが、その周りにある大き目の2つの建物にも、人間と思われる魔力を感じる。それをカシムに伝えた。


 カシムは直ぐに、遊撃部隊を3つに分ける。そして、班の人数が少数な為、無理をしない事と周囲の魔物の討伐のみを班の冒険者達に指示する。


 誰がベリュームに寄生されているか分からない為、救出の際に、俺が全員の状態を調べる様に指示も受けた。

 数が少ないベリュームの魔力は微弱な為、並の魔力感知では宿主の魔力に邪魔されて分かり難い。


 俺は、1番人数が多い集会所を攻める班に割り振られた。


 因みに、ヴィルヘルムとリツェアとは別々だ。そして、直ぐに行動を開始する。

 魔法により、敵を始末しつつカシム達前衛の援護を行う。

 周りから魔導師達の感嘆の声が聞こえるが無視し、逆に指示を出す。そして、周囲の魔物を全て倒し集会所へと踏み込む。

 その途端、集会所内にいた全員の視線が俺達へと注がれた。


「安心しろ。俺達はヴァーデン王国の冒険者だ!おめぇらを助けに来た!」


 カシムの声を聞くと共に、安心からかその場に崩れ落ち泣き出す者までいた。感動的な場面なんだろうが、俺はそんなことより周囲の魔力を探る。


「……カシム、おそらくこの中にはいない」


 小声でカシムに報告する。


「分かった。なら、」


 その時、外の広場の辺りから戦闘音が聞こえた。

 声に反応した俺とカシムを含めた冒険者が、外へと飛び出す。そこでは、質の悪い武器を持った人間が、リツェアを含めた冒険者と向き合っていた。


「雪、この人達は!?」


 俺を見つけたリツェアが叫ぶ。


「……寄生されているが、まだ少ない。リツェア、動きを止めろ」

「ええ、分かったわ」


 リツェアは魔法の為に練っていた魔力を〝身体強化〟を発動する為に使用する。

 更に、両手を自らの影へと向ける。


「〝影の斬り裂き魔(シャドウ・ザリッパー)〟」


 固有スキルの発動と同時に、リツェアの両手へと影から大振りのナイフが現れ、それを握る。そして、軽い足取りで住民達へと迫り、筋肉や腱を狙って斬り裂く。迫る敵を舞うような足捌きで躱し、ダンスの振り付けのようにナイフを振るう。

 俺も魔法で数名の村人を拘束する。


 すると、そこへメデルと光属性魔法が使える冒険者達が駆け付ける。


「これから、あの住人達に〝浄化パージ〟を使用してもらう。襲われる危険もあるから、充分に注意しろ」


 毒蛭のような寄生型蟲系魔物は、浄化系の魔法に弱い。その為に、遊撃部隊の中から浄化系魔法を使える人間を集めて貰っていた。

 だが、浄化系の魔法は希少な光属性にしかなく、しかも習得が困難な為、俺とメデルを含めても5人しかいない。


 サティアは、光属性の精霊と契約しているが、浄化系の精霊魔法は使用できないらしい。


 俺は、先程まで暴れていた女性に近付き〝浄化パージ〟を発動する。その途端、女性の体内で蠢いていたベリュームの数が急激に減って行く。

 浄化系の魔法は魔力消費が激しいが、俺の魔力量は規格外な為、問題はない。


 1人を終え、次の住人に取り掛かる。


 このペースなら、問題ないな。

 そう思いながら、俺が10人目を終えた所で周りを見る。どうやら、他の連中も無事に出来た様だが、魔力を随分と消費している。

 因みに、傷の治療は、回復系の水属性魔法が使える冒険者達に任せた。


「雪!!」


 ひと段落したと思っていた俺の名前を叫ぶヴィルヘルムの方を見れば、何やら大柄な人間の男性を「おらぁ!」という掛け声と共に背負い投げの要領で投げ飛ばしていた。


「悪いが、こっちの住人も頼む」

「分かった!おい、直ぐに行くぞ」


 まず俺が走り出し、その背後をメデルが走って付いて来る。その後を残りの3人が付いて来た。


 俺は、今も暴れる男の背後から背中に触れ魔力を余分に消費した〝浄化パージ〟を発動する。

 すると、大柄な男性の暴れる動きが鈍くなり次第に膝を突いてその場に蹲った。


「もう大丈夫だ」

「あ……ありがとう!あんたは、命の恩人だ!」


 俺は、大柄な男性の感謝に答える事はせずに背を向け、次の住人の元に向かう。

 だが、その前に浄化系魔法を使っていた魔導師達の元に駆け寄る。


「大丈夫か?」

「すみません……」


 壮年の女性魔導師は、顔から血の気が引いていた。


「謝る必要はない。今、魔力を渡す」

「そんな事をすれば、貴方の魔力が無くなってしまいます!」

「問題ない。〝魔力譲渡〟」

「え?ーーぁっ!!」


 〝魔力譲渡〟とは、身体強化などと同じ属性魔法とは別の魔力操作技術と言われる、スキルとは違う技術の1つだ。

 だが、魔力にも相性がある為、人により譲渡出来る魔力量が変化する。

 他にも、魔力操作の腕なども関係して来るが、だいたい、与えた魔力の1〜2割が魔力として還元されると言われている。

 つまり、100与えたとしても10〜20しか相手は回復しない。


 〝魔力譲渡〟は、正直言えば誰も使わない技術だ。

 だが、今回のような状況と底なしの魔力量を持つ俺が行えば、有効な技術になる。


「…………」


 女性は、頰をほんのり赤くし俺を見ている。


「何をボーとしている。早く仕事をしてくれ」


 魔力が回復した筈なのに、俺を呆然眺める女性に向け言った。


「すみません!直ぐに行きます!」


 女性が問題なく走り出したのを確認して、全体に向けて叫ぶ。


「水と光属性の魔法が使える冒険者は、急いで俺の所に来てくれ!魔力を譲渡する!他の魔導師は、その後だ!」


 連続で魔法を使っている所為で、魔導師達の殆どが限界に近い。

 魔力を回復させるマナポーションも貴重で高額な為、大量に用意する事は難しかった筈だ。だから、無理をして倒れられると全体の士気が下がってしまう。それに、極度の魔力枯渇を起こすと命の危険もある。



「辞めろ、雪!今、お前に消耗される訳にいかねぇ!」

「そ、そうですよ。俺達より、貴方1人の方が部隊には必要だ」

「悔しいけど、その通りだ。だから、そんな馬鹿な事は辞めろ」

「他の魔導師が動けなくなったら、誰かに背負わせる。だから、あんたは魔力を温存しててくれ!」

「雪さんの代わりはいないんですよ!?」

「そうだ。マナポーションだって、あと少しある」

「いや、このポーションはお前が持ってろ」


 カシムだけでなく、他の冒険者達まで俺の魔力切れを心配している。


「良いから、さっさとしろ!!」


 威圧を込めて部隊全体に向けて叫ぶ。それでも、躊躇う魔導師達に近付いて次々と〝魔力譲渡〟を行う。


「おいおい、辞めろっ……っ!」

「ご乱心だ、雪さん、落ち着いてっ…何これっ!?」

「誰か、雪を止めろ!!」

「あんた、魔力が枯渇して倒れるぞ……うほっ!」

「カシム。私は、無理」

「カシムさんが止めて下さいよぉ」

「ちょっと、貴方の魔力ドンだけあんのよ……あはぁっ凄いっ!?」

「絶てぇ無理だ」


 全員の治療が終了すると同時に、魔導師達の魔力も全快の半分程は回復させた。


「マジ、化け物だよ、あの人……」

「おい、誰だ。雪さんの事を実は、弱いんじゃないかって言ったの?」

「……すまん。やっぱり、化け物だったわ」

「ちょっと、あいつ、顔色一つ変えてないんだけど……」

「ん〜、底無しなのね」

「俺達って、強かったよな……」

「いや、あの人達と比べると……駄目だ。悲しくなって来たわ」


 これだけの人数がいては、避難も残りの生存者を探しに行くのも難しいな。


 魔力を回復してやったとは言え、人が多ければ、それだけ動きが緩慢になる。それに、調査村の住人は、冒険者と比べると戦闘は素人も同然だ。


 遊撃部隊の利点である速度と機動性が失われれば、敵の的になってしまう。




 それに、もう1つ気になる事がある。

 俺は、思考を続けたまま歩き出す。

 左手には、現在ミルがいる。


「ん?どうしたの」

「ミル、可笑しな魔力の流れを感じないか?」


 ミルは、周囲の魔力の流れを探る。


「……確かに。この周辺の建物、変」


 ミルの言う通りだ。

 周りの人間の魔力を探るのに集中し過ぎて、気付くのが遅れたが、この周辺の建物に魔力が吸われている。

 俺は、建物の扉を押し開く。


「ミル!直ぐに周辺の建物も調べるぞ」

「ラジャ!」


 俺とミルは、可笑しな魔力の流れを探り、魔力の流れ込む建物を手当たり次第に調べる。


「これ、不味いね……」

「ああ」


 建物内を埋め尽くす程の白い球体。

 時折、鼓動を刻み孵化が近い事が予想される。


「どうした、2人とも?って、何じゃこりゃ!!」


 カシムが驚くのもしょうがない。

 住人が押し込められていた集会所を中心に、周囲の建物の殆どに、大量の卵が産み落とされていた。


「なるほどな」

「何が?」

「俺達が最初に見つけた肉塊は、保存食で集会所の住人は蟲が孵化した際の生きた餌という訳だ」

「それって、やばくねぇか?」

「ん、卵があるってことは、ここが巣の中心。または、その付近」

「くそっ!直ぐに避難の指示を出す!」


 カシムの判断は早かったが、まだ見ていなかった建物の1つから地を叩くような鼓動音が響く。


『ドクン、ドクン…!、ドクン!、ドクンッ!!バクンンッッッ!!!』


 その鼓動に合わせて、集会所周辺の建物にあった卵の鼓動音も高まる。

 俺とミルとカシムは、建物から離れ住人達の元へと戻った。


 その時、バキバキッと音を上げ、建物を破壊し1匹の魔物が姿を現した。


 その姿を一言で言えば、醜悪。


 蜘蛛の顔に蠍の尾と鋏など様々な蟲が合わさり生まれたような醜い化け物。

 何より、蜘蛛の頭の上にのる人間の女の形をしたそれが、化け物の気色悪さを数倍に跳ね上げる。

 

 目の前の魔物を見た俺は、嘗て、道化の魔王の幹部が研究していた魔物を思い出した。

 異常な程の凶暴性と環境への適応性、何より周辺の生物を根刮ぎ喰らい尽くす無慈悲な食欲。


 嘗て、創り出された数は5匹。

 たった5匹の所為で、数え切れない程の村と街が滅び、一国の人口と変わらない犠牲者を出した禁忌の魔法生物。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ