第28話 忌まわしき森の女王
冒険者ギルドからの緊急収集を受けた後、その内容を4人で整理する為と今後の準備の為に一旦自宅へと戻って来た。
リビングのソファーに腰を下ろし、冒険者ギルドで得た情報をまずは自分の中で整理する。
カシムとバルザックの会話をミルの精霊魔法で盗聴して貰った結果、予想の斜め上を行く情報を入手することが出来た。
ついでに、カシムが俺に憧れている、という知りたくもない情報まで知ってしまった。
正直、気持ちの表現の仕方に困る。
まぁ、それは置いておくとして、この国に魔王の侵攻か。
確かに、魔族領と近い事もあり魔王から狙われる可能性は高いと思ってはいたが、どんな魔王だ。
召喚当初に、聖王国の王様が言っていた気もするが魔王は決して1人ではない。
俺が、100年前に倒したのは、〈骸の魔王〉と〈道化の魔王〉の2人だ。
どちらも、並外れたとんでもない奴等だった。
何度も死にかけた、という苦い記憶が蘇る。
「……」
俺は、嫌な記憶を整理して、100年前に戦闘をしなかった魔王を何人か思い浮かべる。その途中で、隣のヴィルヘルムから声をかけられた。
「雪、魔王の事も気になると思うが、先ずは目の前の依頼が優先だ」
ヴィルヘルムの言葉に「そうだな」の返答を返すと、この後の動きを3人に提案する。
「まずは、フォンティーヌ商会から馬車を借りて、一応作り置きしておいた食料をアイテムボックスに入れておくか」
「蟲の状態異常も雪とメデルが入れば、問題ないかしら?」
「いや、単独で行動する可能性も踏まえれば、ポーションは多めに準備しておくべきだ」
「取り敢えず、フォンティーヌ商会に向かうか」
「そうね」
「はい」
「分かった」
俺達は、ソファーから立ち上がりフォンティーヌ商会に向かう。
だが、イリーナはどうやら留守らしく会う事は出来なかった。会う事が出来れば、色々聞き出したい事があったのだが、いないのならしょうがない。馬車を借りて、事情を話した所、毒消しのポーションなども全てフォンティーヌ商会が準備してくれた。
その為、約束時間には早いが、西門へと向う。
提示されていた時間には早い為、誰も着ていないと思っていたのだが、予想外にもギルドマスターであるバルザックが俺達の直ぐ後に姿を現した。
ヴィルヘルム達が、僅かに警戒心を出すのを感じた。
無理もない。隠しているとは言え、一方的に疑って来る相手に対して、咄嗟に好意的な反応をするのは案外難しいだろう。
「随分早いですね」
「君もな」
一応礼儀として俺から声をかければ、当たり障りのない返事で返された。
ギルド側から余計な情報を与えないように、当たり障りのない対応を取りつつ、こちらを探っているのだろうか。それにしても、他にも仲を深めて俺の真意を探る方法もあるだろうけど、バルザックは嘘が下手そうだから向いていないな。
「そういえば、1つだけ質問をしても良いですか?」
「何だ?」
「俺達っていつまで仮なんですか?」
俺の質問にバルザックは、少しだけ眉間に皺を寄せる。
本人の意向では、俺達をこのまま仮冒険者にしておくつもりなのだろうが、現状それは難しい。
何故なら、俺達は短い期間ではあっても目に見える結果を出している。冒険者は良くも悪くも実力主義な所がある為、長であるギルドマスターも結果を出している者にはそれなりの対応をしなければいけない。
「……今回の結果次第だ」
「分かりました。やれるだけやってみます」
バルザックは適当に頷きながら、門から少し離れた岩に腰を下ろし何やら羊皮紙を広げ眺めている。
おそらく、調査村に関する地図かそこまでの道を確認しているのだろう。
「バクバク」
「モグモグ」
「モクモク」
時間はまだあるが、何もする事がない。
だが、馬車の近くに立つメデル達は露天で買った肉と野菜の串焼き、味噌を塗って焼いた芋、甘そうな蜂蜜などを使ったクレープを次々と口に運んでいる。
「主もどうぞ」
メデルに、門の近くで買った来たばかりの串焼きを渡される。
「ああ」
俺はそれを受け取る。
「お前等、食い過ぎだろ?」
美味そうだけど。
「雪、腹が減っては戦は出来ないぞ?」
「クレープって、こんなに甘くて美味しいのね」
「このお芋も仄かに甘くて、ホクホクしてて美味しいです」
この3人を見ていたら、少しだけ気を詰めていた自分がバカみたいだ。
手に持っていた串焼きの野菜を口に運ぶ。
「美味いな」
「だろ?」
「串焼きだと、野菜も甘くて美味しいわよね」
「主、お芋も食べて下さい」
「クレープも食べなさい」
「こっちの肉も美味いぞ」
メデル達から食べ物を次々と渡されても、馬車の中のさらに盛られた食べ物はまだまだある。その為、それぞれの食材に舌鼓を打ちつつ、時間になるのを待っていた。そして、そろそろ出発の時間が近付いて来た頃、少し離れた位置で俺の名を呼ぶサティア達に気付いた。そちらを振り向けば、何故か顔を赤くし、カシム達が歩いて来ていた。
「あれ、顔赤いですね?」
「な、何でもねぇ!」
「酒臭い」
「間違いなく酒だな」
サティアとミルに視線を向ければ2人揃って、お願いします、とだけ言われた。
俺は溜め息を吐きながら、カシムに〝状態回復〟を酔いが抜けるまで使用する。
「後で、話をしようか」
「「「はい……」」」
こうして、緊急依頼を受ける冒険者は西門へと集合した。