第11話 旅立つ
地面には魔力を殆ど喰われた風巻と深海、そして、腹を殴り気絶させた早乙女が倒れている。
少しだけ、力み過ぎたかもしれない。
手を抜いて無力化する事も出来た筈だが、先程までの俺にはそんな選択肢はなかった。
いや、選択肢はあったが、選ぶつもりは毛頭なかった。
「はぁ……」
溜め息は吐く。
地球の元の生活に戻って、3年近く時間は過ぎた筈なのに、こっちの世界で生きた癖が抜けていない。
そんな事を周囲に残った魔力を聖剣に喰わせながら考える。
俺の全力と戦った事は、3人には、良い経験になる筈だ。
死戦を生き抜いた時、人は確実に強くなる。それは、死を間近で感じる程に絶望的な実力差がある場合や不利な状況である程に人を飛躍的に成長させる。
戦闘の痕跡を消しながら、3人の容態を確認するが命に別状は無い。
周囲に残っていた魔力を喰わせ終わり、2つの魔法を解除する。
これだけしておけば、この場で戦闘があった事何て誰も分からない筈だ。
もし、3人が国に報告しても痕跡がない為、対応は遅れる。俺は、その間に他国に逃げてしまえば、聖王国からの干渉は難しいだろう。
俺は聖剣を消して、偽装をかけ直す。そして、3人の脇を通り抜けようとした時、ズボンの裾を掴まれた。
「……」
足下に目を向ければ、俺のズボンの裾を掴む深海の姿が目に入った。
意識は魔力が枯渇した所為で虚ろになり、伸ばした腕は震えていた。力など入っておらず、どう見ても限界なのが分かる。
「……どうしてそこまでする?」
「……凍夜は…俺の…友……だから」
『友』、その言葉を聞いた瞬間、俺の中で押さえ込んでいたものが溢れ出した。
友達?仲間?ふざけるな。俺は、2度とそんなものを信じない。信じられる訳が無い。
信じれば裏切られる。時間をかけ繋いだ絆に意味なんてない。その信頼や絆が大切だと思えば思う程、裏切られた時の傷は深くなり、絶望に変わる。
「……下らない」
深海の手を無理矢理払いのけ、道を進む。
「…………」
早乙女は別として、あの2人には少なからず級友に向ける程度の情はあった様に思う。
突き放しても俺を助けようとしてくれた深海、地球にいた頃から何かと俺を庇ってくれた風巻には正直、感謝している。
あの2人は優しい。
だが、その優しさがいずれ自分の身を追い込み命を危険に曝すかもしれない。この世界で生き抜くのに最も必要なのは、他人からの借り物なんかでは無い。覆す事の出来ない、自分の意思と実力だ。
先程の戦いで、自分があの2人の敵になる事で強さの足掛かりを得る事が出来たなら嬉しく思う。そして、それが俺の出来る2人へのせめてもの恩返しだと思っている。
そろそろ王都の外に出るな。
「……分かってる」
俺はかつての元仲間たちにされた様に、どんな形であれ、深海たちの心を踏み躙った。
俺も相当な屑だな。
それでも、これが今の俺だ。
一度クラスメイトたちがいる王城を見て、溜め息を吐き出す。
他人がどうなろうと知った事ではない。
でも、
「簡単には死ぬなよ」
俺を追いかけて来てくれた3人の顔を思い出し、そう言葉を紡いだ。そして、城壁の外、人間領の危険地帯へと歩き出した。