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異世界召喚されたのは、『元』勇者です  作者: ユモア
第2章 異世界召喚
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第9話 深海庸平1


 



 俺の名は、深海庸平。

 今俺は、小学校からの幼馴染と剣を構え向き合っている。


 本当はこんな事したくない。

 なのに、どうしてこんな事になったのだろう……。


 最初のきっかけは、あの異世界召喚だ。




 俺は何が起こったのか分からず、ただ呆然と女神を名乗る水晶から聞こえる声と世界が変わり澤輝の声とそれに応えるクラスメイトの声を聞いていた。

 何度も夢だと自分に言い聞かせても、目の前の光景がクラスメイトの声が、これがどうしようもない現実なのだと無情にも突き付けて来る。


 俺は、別に地球での平凡な毎日に嫌気がさしていた訳ではない。

 寧ろ、家族やクラスメイトと過ごす毎日に満足していたんだ。だから、俺はこんな召喚望んでいなかった。


 押し寄せて来る負の感情を何とか抑えようと、地球にいた頃から最も信頼を寄せている友達だった、凍夜を探す。

 凍夜はクラスメイトの1番後ろの方で冷静に周りを観察していた。


 俺はその姿を見て、何故かホッとした。


 しかし、話しかけようと近付くにつれ、凍夜が海堂に殴られている時の光景を思い出し、今までの自分が行っていた行動が頭の中で蘇る。


「……ぁっ」


 俺は何で助けなかった?

 俺は大切な友達を見捨てて、一体何をしていたんだ……?


 俺の恩人で、俺の唯一無二の親友に、俺は何て事を……。


 後悔が俺の心を満たし、次に燃える様な自身への怒りに変わった。そして、いつの間にか進んでいた足は止まり、掌が白くなる程に握り締めて痛みを感じる程だった。


 それからの日々は、どうにか謝罪する機会を探っていた。そして、召喚から7日目に、凍夜を建物の裏に連れて行く海堂たちの姿を見た。


 気付くと俺は、湧き上がる怒りを胸に、そちらに向けて歩いていた。

 その隣をいつの間にか、クラスメイトの風巻さんが歩いていた。


 俺たちは会話をする事はなく、凍夜が連れて行かれた建物の裏に向かって進んだ。そこで目に入ったのは、海堂が凍夜に初めて見る火の魔法を放つ所だった。


 俺は咄嗟にアイテムボックスから、最近使っている槍を取り出し魔法に向けて躊躇なく放った。

 槍は、『戦の武皇(アー・レクス)』の補正を受けている事もあり、見事に魔法を貫いた。



 その後、何とか凍夜と会話をしたが、彼は俺達を側に置きたくない様子だった。そうしている内に、凍夜は城の中に入って行ってしまった。


「……はぁー、俺は…」


 結局謝れ無かった。

 その時、隣からチョンチョン、と肩を指で突かれたので、そちらを見る。そこには、クラスNo. 1美少女、学校の女神など、様々な二つ名で呼ばれる風巻玲さんが俺を見上げていた。


 さっきまで全く意識していなかったが、一度意識してしまうと胸がドキドキと高鳴る。

 俺を見上げる綺麗な黒目、僅かに汗をかいている首筋、服を押し上げる胸……目のやりばに困る!


 誤解がない様に言っておくが、俺は彼女いない歴=年齢。つまり……18歳童貞なのだ。


 そんな俺からしたら、今の状況は、兎に角ヤバイ!


 そんな事を考えてるとも知らず、風巻さんは平常運転で俺に話しかけて来る。


「彼は相変わらずね」

「……あ、あぁ」

 

 どうして俺はいつも、こんな無愛想な返答しか出来ないんだ。だから、周りから何を考えてるか分からないって言われたり、恐がられるんだろうな。


「それにしても、深海は一乃瀬と仲が良かったのね」


 そう言われた瞬間、俺は後悔や自己嫌悪、自分への怒りの所為で顔を顰めてしまった。


「…………幼馴染だ」

「そうなの」


 気を使ってくれたのか、それ以降風巻さんが俺と凍夜の事について聞いて来る事は無かった。


 その後はどうも話が続かず、区切りの良い所で風巻さんと別れた。

 自分のコミュニケーション不足を改めて体感しつつ自分の部屋に戻った。





 昼の鐘が鳴り、仮眠から眼が覚めた。

 部屋を出て食堂に向かっていると、海堂の取り巻きの1人である早乙女が、凍夜の部屋の方に向かって行くのが見えたので後を追った。


「……おい」

「ぇ?ひぃ!」


 振り返った瞬間早乙女が、小さな悲鳴を上げた。


「……」


 昔から何度も似た反応をされて来たので、今更気にする事ではない。


 そう、ちょっとグサッと来ただけだ。


 でも、今の何が悪かったんだ。

 普通に話しかけたつもり何だが?


「……何をしている?」

「えっと、僕……謝ろうと思って」


 早乙女はどうやら、訓練後の虐めに参加してしまった事を凍夜に謝りたくて部屋に向かっていたとの事だ。そんな事情を聞いていると、廊下の角を曲がって風巻さんがやって来た。


「何してるの?」


 風巻さんの顔は笑っていたが、目が笑っていなかった為正直に話す事にした。


「ふーん。それじゃ、私も行くね」


 風巻さんは「話はまだ終わってないから」と言って微笑んでいたが、目が違う。例えるなら、獲物に狙いを定めた狩人の様だ。


「あれ、風巻さんってこんなキャラだっけ?」


 早乙女の問いに「さぁな」とだけ返して置く。


 3人で凍夜の部屋に向かうと、廊下の先にある部屋の扉が開き凍夜が出て来た。


 俺たちは咄嗟に隠れてしまった。

 謎の反射的な行動に、3人揃って首を傾げた。


 だが、反射的に隠れてしまった故に、話しかけに行き難く、廊下の角から凍夜の様子を観察する。


 上から順に、俺、風巻、早乙女となっている。


「あれ……一乃瀬君、何処行くんだろ?」

「あっちは、城の外ね」


 俺達は、向き合い頷き合う。


 俺達異世界人は、行動の制限を受けてはいない。


 だが、妙な胸騒ぎがした。


「追ってみる?」

「勿論だ」


 珍しく俺は即答していた。

 俺達は、凍夜の後を追い城外から外に出る。それから先に、恐怖と絶望が待ち構えているとも知らずに俺達は歩き出した。




□□□□□




 向かっている方向から、何となく王都の外に向かっているだろう事は予想できた。


 だが、城壁の外の魔物は強い。召喚されて2日目に、魔物との戦闘を見せて貰ったが、正直戦闘に特化した固有スキルを持つ俺でも勝てるか分からない敵だ。


 そんな危険地帯に、回復の固有スキルしか持たない友達が行こうとしている。

 声をかけ止めるべきだと距離を詰めようとした所で、凍夜は道の脇道に入って行った。


 俺は、友達が外に向かっていないのだと思い安心したと同時に、胸騒ぎがしたが、俺達も脇道に入り進んで行く。

 道幅は奥に行くほど広くなり、その奥は人気が全くない。


 その時、俺の勘が危険だと警報を鳴らしたが、既に遅かった。


「人を尾行するとは、良い趣味してるな」

「「「!!」」」


 角を曲がった所には、凍夜が俺達を待ち構えていた。

 驚く俺達に、凍夜君は刃物の様な光を宿した瞳で聞いてきた。


「それで、俺に何の様だ?風巻、深海、それと早乙女」

「いや、私たちは、その、何となく…」

「帰れ」


 刃物の様な光を宿した瞳が、凍えるような冷気を放っているように感じ、無意識に体が震えた。


「これ以上俺に関われば、容赦しない」


 城で話した時とは、まるで別人の様に雰囲気が違う。


「そ、そんな」


 それでも、相手が凍夜なら迷う必要はない。


「……断る」

「私も、ここで退く訳にはいかない」

「……ここで、凍夜を見失ったら.....2度と、届かない気がする」


 ここで、少しだけ凍夜の放っていた冷たさが緩んだ。


 だが、次の瞬間、二つの魔法が発動された。


「はぁー、しょうがないな。第三階梯魔法〝静音(サイレント)〟第四階梯魔法〝濃霧ミスト〟」


 まず、場が音が漏れない空間に変わり、水の第四階梯魔法〝濃霧ミスト〟が俺たちを囲む様に現れ、外側からの視界を封じた。

 魔法の同時発動に、この領域を作り出す程の高レベルな魔力操作。


 風巻さんも驚きで目が見開かれている。


「2つの魔法を同時に発動!?」

「えっ、第四階梯!?」


 風巻さんと早乙女の驚きは当然だ。

 召喚されたクラスメイトたちが、現在使える最高位の魔法は第三階梯の魔法までだ。

 たかが1つ上の魔法と思うかもしれないが、その1つ上の魔法をクラスメイトの誰1人として習得出来ていないのも事実。


 だが、それをクラスで1番魔力が少ない凍夜が、当たり前の様に使っている事に俺も驚いている。


「俺は、国を出る。そして、2度とお前達とは関わるつもりはない」

「駄目だ。凍夜……」


 必死に言葉を探す俺を見て、凍夜が嗤った。

 俺らしくないとでも思っているのだろう。そして、次の瞬間、凍夜が凄まじい速度で俺に肉薄する。


「遅過ぎるぞ。深海」


 反射的に伸ばされた手を弾こうとしたが、俺の動作より速く、凍夜の手が俺の服の襟を掴む。

 驚異的とも言える速度と力だが、俺は逃げる事なく立ち向かう。

 左足を滑り込ませる様に踏み込み、右足から腰を勢い良く回転させて、凍夜の事を横方向に向けて背負い投げの様に投げようとした。


 だが、一瞬で体勢が崩された。

 何が起こったのか分からず、気付いた時には体が宙に浮き、地面に体を打ち付けていた。


「がはっ」


 肺から息が吐き出され、背中から衝撃と痛みが走る。

 暫く感じていなかった敗北の苦さが、広がった。たった一度の投げ技で、俺の体は凍夜の強さに屈してしまった。そして、俺の武術家としての本能が、『手を抜かれた』事を理解するのに時間は必要なかった。


「ぅ……」


 強い。技の理解など出来なくても、自分などでは到底届かない高みに、凍夜が達している事は理解出来た。


 だが、俺に『諦める』という選択肢はない。

 

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