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春と秋。  作者: 柚香
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「また、告られたのかよ。」


俺は、誰がどう見ても不機嫌である、という態度で言い放った。




いつものように、同じクラスの幼馴染と帰宅しようとしていたところ。

彼は「ちょっと用事が出来ちゃって…ごめんけど、待ってて!」とだけ言い残し、どこかへ駆けて行ってしまった。


言われた通りに俺は1人、下駄箱で外の紅葉を眺めながら彼が来るのを待っていた。


しかし、なかなかやってくる気配がない。


もう先に帰ってしまおうかと思っていたところ、息を切らせた幼馴染が走ってやってきた。




放課後に入ってから、既に1時間近く経つ。

まだ日は長く、空は高く澄んでいる。俺の気も知らないで。


「ごめんごめん」


そう言って、俺の唯一の幼馴染である田上たがみ 春也はるやは笑った。


春也…通称はるくんは、昔から家が近所で、幼稚園から現在の高校までずっと同じ場所に通っている。

おまけにクラスはそのうち11回も同じで、現在も同じクラス。いわゆる腐れ縁だ。


確か小学5年生の辺りまでは俺と同じ身長のはずだった。


しかしはるくんは急激に身長を伸ばし、現在、俺との身長差は約14センチメートル。屈辱的なことに、男女の理想的な身長差である。


身長だけではない。はるくんは誰もが認める「正統派爽やかイケメン」だ。


控えめな二重まぶたの優しい目、綺麗に通った鼻筋、そして一種の美術品のようなフェイスライン。

さらにすっきりとした癖のない真っ直ぐな天然の黒髪。

少女漫画から出てきたのか、と本気で疑いそうになる出で立ちだ。


もちろんモテモテである。

先ほども女子に呼び出され、想いを告げられたようだ。

俺はそれが終わるのを1時間近くも待っていたから、相当に熱心な女の子だったのだろう。


はるくんがそうやって呼び出されるのは、今月でもう…3人目ではなかろうか。恐ろしいやつめ。


「ほんと、待たせちゃってごめんね。帰ろ、しゅうちゃん」


しゅうちゃん、というのは俺…小谷野こやの しゅうのあだ名だ。

高校生にもなってちゃん付けで呼ばれるのは少々恥ずかしいものがあるが、幼稚園時代からの呼び名であるので今更変えられない。


俺は未だに頬を膨らませながら、ローファーに履き替える。


はるくんに比べて俺は…決して残念な顔であるとは思っていない。ただ、男らしさは皆無だ。


無駄にくっきりとした二重まぶた、女性が憧れるのではと思えるほどぷっくりとした唇。はっきり言ってコンプレックスだ。


しかし、もっとコンプレックスであるのがこの体型。


身長が低いことはもう諦めたが、とにかく俺は丸い。太っているというわけではないのだが、なんだか丸い。


腕なんかは餅みたいだ。自分では「これは筋肉だ」と言い張っているが、姉には「脂肪でしょ」と一蹴され、はるくんには「枕にしたい」と飽きるほど言われた。


それらを脱したくて、高校入学を機に髪を茶色に染めてみた。


しかし癖のある髪であるためか、ますます丸っこさが増してしまったような気がする。


そして制服に着られたくはないので、ブレザーのボタンは留めない。


しかしこれも、高校生になって身長が伸びなかったお陰でブレザーの袖、おまけにズボンの裾まで余りまくり。

結局、制服に着られてしまったままであるということには1年生の終わり頃から薄々気づいている。


なんだか、ため息をつきたくなった。









高校から自宅までの道程を並んで歩く。


入学したての頃は真新しい景色に心踊らされていたが、もうこの道程を歩く生活も1年と10ヶ月。今となってはただの住宅街だ。


「今度はどんな子に告られたの?」


俺はぶっきらぼうに問いた。


はるくんは「誰に告られたの?」と尋ねても教えてくれない。

告白して振られてしまったことを噂にされるのは可哀想でしょ、とのことである。どこまでイケメンを貫いているんだ。

だから俺はいつもこうやって尋ねる。


「なかなか可愛い子だったよ」


「それなのに、オッケーしないの?」


「うん、まあね~」


はるくんははぐらかすようにそう言った。



“他に、好きな人がいるから?”



俺は、喉まで出かかったその問いを心に押し込んだ。

何故かその質問をすることが出来ない。



“そうだよ”



そう答えられたときが、怖いから。


俺は拳を握りしめた。ズキン、ズキンと胸が痛む。

そっと横目で、隣にいるはるくんを見上げた。



いつからだろう、告られたと聞く度に胸が痛むようになったのは…。









「それでさ、覚えてる?中学の修学旅行のときにさ…」


住宅街を抜けると、そこには橋。

見下ろすと、傾きかけた日のオレンジ色を反射する川が穏やかに流れている。


しかし俺の心は全く穏やかではない。


さっき感じた胸の痛みが、忘れようとしても心の一番奥でズキズキとしている。


なんで。なんでこんなに胸が痛むの。


「誰だっけ?迷子になっちゃったの。ふふふ…見つかったとき、子どもみたいに泣いてたよね」


そしてなんではるくんはいつも通りなの。

隣にいる俺は謎の痛みと戦ってるんだぞ。


気がつけば、俺はずっと黙って歩いていたらしい。ふとはるくんが立ち止まり、俺の顔を覗き込むように見た。


「もう、まだご機嫌斜めなの?ごめんって、待たせちゃって」


「今月で3回目」


俺はそう言ってのけて頬を膨らまし、そっぽを向いた。別に、待たされたことが不満なわけじゃないけれど。


それにしても、これまでの人生で一度も告られたことのない俺の横には、一ヶ月で3回も告られるやつが歩いているのか…。


そう考えると卑屈な気持ちになってきた。

人生のほとんどを共にしている俺とはるくん。一体どこでこの差がついたというのだ。


そんなことを考えていると、ふと頭に優しい感触を得た。


驚いて、はるくんを見上げる。

はるくんの綺麗で大きい手のひらが、俺の頭を撫でていた。



反射的に顔が赤くなる。

勝手に鼓動が高鳴る。


俺は目を見開いた。

その先には、はるくんの優しい瞳…本当に、吸い込まれそう。


周りの音も景色も全て遮断されたような、そんな感覚に陥って……



「ちょっ……撫でんな!」


はっと我に返るとすぐさま、俺の頭を撫でるはるくんの手を振り払った。

はるくんは気持ち悪いくらい爽やかに笑っていた。


「だって、しゅうちゃんが可愛くて」


「は…っ、意味分かんねえし」


はるくんは、ふふふ、と笑って再び前を向いて歩き始めた。

少し遅れて俺も歩き始め、やがてはるくんの隣に追いつく。


夕日が俺たちの背中を照らして、前方に長い影を作っていた。

この14センチの身長差もしっかりと再現してあった。影のくせに、余計なお世話だ。



“だって、しゅうちゃんが可愛くて”



そんなことサラッと言うな、馬鹿。


はるくんの優しい声が、俺の脳内を占拠する。


もはやうつむいて歩くことしか出来なかった。


はるくんは相変わらずなんてことのない話を続けている。それに対して生返事をするのが精一杯だった。


どうしてしまったんだ、俺。


勝手に高鳴り続ける鼓動を自分ではどうすることも出来ないまま、この日ははるくんと別れた。



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