星を見る人
夜、静かな丘の上に私は天体望遠鏡を立てる。
冬の寒さに痛みさえ感じる顔を守るように、マフラーに埋めた。
しっかりコートを着込んでいるはずなのに、寒さが背後から寄ってきて芯から私を掬い取っていく。それが何だか恐ろしくて望遠鏡を立てる作業に没頭する。たった一人の夜は恐ろしく竦むようではあるけれど、それでも私はその感覚に妙な親近感を覚えていた。だから私は毎晩のようにこの丘に来て、こうして星を見上げるのである。
寒い空気は怜悧でいて、鋭く、その独立性を主張している。決して何とも交わることはないと、高貴な雰囲気さえ漂わせているので、私もそれに対して“無視”という形で応える。白い息を吐き出して、そこに冷え固まった関係性がしっかり形成されているのを確認すると安心するのだ。
天体望遠鏡を設置し終えた私は、家から持ってきておいたコーンスープを口にする。これも関係性の問題なのだ。確かに寒さは芯から私を絡め取ろうとするけれど、決して交わることはないのだから、私の体の中に入ったそれらを私はコーンスープで追い出す。コーンスープは火傷しそうに熱く、しかし冬の空気の前にすぐ冷めてしまう。そう分かっているからこそ私はそれをなるべくすぐに飲み干す。
それらの儀式を終えて初めて、私はようやく星を見上げるのだった。見上げることに執心できるのだった。
星屑の一つ一つを見上げる。こうして星を見上げる私だけれど、星座に関する知識は全くと言って良いほどない。それこそ、小学校だか中学校だかの理科でやった夏の大三角とか北極星とかカシオペアとかそう言った知識しかない。“そんな奴が星を見るな”とその筋の人に怒られてしまいそうだけれど、そもそも星座を作った昔の人たちはそんな星座が学問になるなんてついぞ考えなかっただろうし“あれ、何となく小熊に見えない?”くらいのノリで星座を作ったに違いないのだ。それが勝手に神話やらなんやらがくっ付いて歩き出したにすぎないと思うのだ。
無数の星は、暗闇の世界を輝かせて私はその綺麗さに感嘆する。私が星を見る理由とはそんなシンプルなものなのだ。
「あ、」
流れ星、一筋。
思わず声をあげた。願いを唱える間もなく消えていったそれを思いながら、私は今夜も星を見上げ続ける。
fin.