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エピローグ


 魔王が倒された事により、エリスとベルの体に施されていた封印の陣は消滅した。


よって、エリスとベルの体は、通常の人間と同じスケールのものになった。


 それでも、普段から鍛えていたエリスの体力や筋力は、一般人より頭一つ秀でているし、イウヴァルトの血を継ぐベルの魔力は、常人とは比べ物にならない程強大だ。


 魔王との戦いによって損傷した聖剣は、今でも大切に、焼け残ったベルの金庫に保管されている。


そして、ベル達の活躍により魔王が打ち滅ぼされてから、一週間が経った。


「おーい! そこの板、釘で打ち付けといてくれぇ!」

「おーっす!」


 麗らかな日差しが差し込む午後、場所はウィンドヘルム村。上半身裸の若い男達が百人以上集まり、村のあちこちに家を建てている。


 男達は、ウィンドヘルム村に住んでいる男と、ティンクルベリーから移り住んできた男に分けられる。


 酒場にハインデルツの手下が攻めてきた時、エリスがマスターにしたお願いとは、『日暮れまでに、町の人全員をウィンドヘルム村まで避難させて』と、いうものだったのだ。


 最初はマスターの話を、半信半疑で信じていないティンクルベリーの住人とハインデルツの手下達だったが、屋敷から聞こえてくる激しい戦闘の音と、空に立ち込めた魔気を見て、ようやくマスターの言う事を信じた。


 その後、町人とハインデルツの手下全員が身一つで迅速に町から抜け出したおかげで、何とか難を逃れ、奇跡的に、死者は一人も出なかったのだ。


 ティンクルベリー崩壊について、王宮は後日、原因不明の大規模な地下爆発という判断を下し、ティンクルベリーの住民は最寄の村や町に移住するようにという、投げやりでいい加減な通達を送ってきた。


 だが、鉱山が枯れた事で、半ばティンクルベリーに見切りをつけていた町人達は、皆移住を受け入れ、ウィンドヘルム村の住人も、快くティンクルベリーの人々を迎え入れた。


 そんな事もあって、住人が増えて賑やかになったウィンドヘルム村は今、新しい住人達の為の住居作りで大忙しなのだ。


 ベル達はと言うと、魔王を倒した後、ウィンドヘルムに帰ったと同時にマリーに捕まっていた。


 勝手な行動をした挙句に重症を負ったベル達を叱りつけたマリーは、傷が完治するまでの一週間、ベル達が勝手な行動をしないように、三人をベッドにロープで縛り付けて過ごさせ、今日に至る。


 ベル達の退院日の今日に合わせて、急ピッチで建てられた建物がある。晴れて教会から退院したベルは、その建物を見て、嬉しさと驚きが入り混じった表情をした。


「こ、これが僕の店ですか? す、凄いです!」


 立派になって生まれ変わった自分の店を見て、ベルは感動の涙を流した。


 レンガをふんだんに使って建てられたベルの新たな店は、何と、二階建ての広い店になっていたのだ。


 一階は店、二階は住居として使える優れた物件で、店先にも綺麗な花壇が作られ、蝶達が優雅に舞っている。


「どうだ、気に入ったか?」


 マスターがしたり顔で胸を張った。


 先日完成したこの店の建設を指揮したのは、このマスターなのだ。


 ティンクルベリーの元炭鉱マン達の力を借りたマスターは、驚異的な筋肉を駆使して、僅か五日間で店を建ててしまったのだ。


「最高のお店ですよ! お祖父さんが見たら、感動のあまり失禁しちゃいます!」


「喜んでくれて何よりだ。しかし、俺がここで酒場を営業する話だが、本当にいいのか?」


 ベッドに縛り付けられている間、お見舞いに来たマスターに新しく家を建てたらマスターにそこで酒場を経営して欲しいと、ベルが頼んだのだ。


「勿論ですよ。酒場を開いた方が、沢山の人が来てくれますし、その方が楽しいですから」


「そうか? だったら、遠慮なく使わせてもらうぜ」


 マスターは満足そうな顔をして、ベルの肩をバンバンと叩いた。




「よぉ、道具屋。退院おめっとさん」


 教会の方から、ギリアム、マリー、レオンハルト、グリフが、ゾロゾロと集まってきた。


「ギリアムさん、皆! 見てくださいこの店! これ! これ僕の店ですよ!」


「おお、立派じゃねぇか! 立派すぎて腹が立つから、壁に小便でもぶっ掛けてやるぜ」

「ぎゃぁあ! せっかくの新築なんですからやめて下さいよっ!」


「冗談だ、冗談! はっはっはっは!」


 ギリアムはすっかりこの村に溶け込んでいた。


 ウィンドヘルムの平和に感化されたのか、盗賊から足を洗ったギリアムは、教会でただ飯を食いながらプー太郎としての日々を歩み始め、マリーの頭を悩ませている。


「それより、お嬢ちゃんはどうしたんだ? レオンハルトや道具屋よりも早く退院したって聞いたが」


 マリーが、新築となったベルの店を見て、微笑む。


「女の子には、色々と準備というものがあるのですよ」


「あん、なんだそりゃ?」


 ギリアムが訝しげな表情をした時、ベルの店のドアが中から開かれた。そこから出てきた人物を見て、その場に居た全員が息を呑んだ。


「ど、どーも」


 エリスだった。しかしその服装は、普段着ているレザーアーマーや、長旅で薄汚れたシャツなどではない。エリスの為に新調された、半袖の水色と白で統一されたエプロンドレスを身に纏っている。


 女の子らしい服など着た事がないエリスは、こそばゆい感覚に襲われていた。


 膝丈まであるスカートをなびかせながら、はにかむエリスを見たベルは、


「……」


 エリスの美しさと可愛さを兼ね備えた姿に見とれていた。


 エリスが左腕に提げているバスケットには、色とりどりな花が収まっている。どこからどう見ても、今のエリスは可憐な花売りの少女だ。


 呆けているベルを見て、悪戯心が芽生えたマスターとギリアムは、互いにニヤリと笑い、二人でベルの背中を押した。


「うわっ!」


 バランスを崩したベルは、よたよたとエリスの目の前まで移動した。


 そして、エリスの姿を間近でみたベルの顔が朱色に染まる。エリスも、そんなベルの表情を見て、頬を赤らめる。


「エリス……」


「はっ、はひ!」


 エリスの体がピーンと張る。どこか変ではないか? 可笑しいところはないか? と、エリスの脳内はそんな考で満たされている。



「凄く似合っているよ」



 ベルは笑顔で言った。


その言葉を聞いたエリスも、嬉しくなって頬を緩ませた。


 エリスがバスケットから一輪の花を取り、それをベルに差し出した。


「ベル、……これ」

「くれるの?」

「うん。ベルが初めてのお客さんよ」

「あ、ありがとう、エリス」


 ベルはエリスから花を受け取り、それを胸ポケットに差し込んだ。そして、二人はまた笑い合う。


 見ている方が恥かしくなる光景を見て、ギリアム達が一斉に二人を冷やかし始めた。


「それじゃあ、俺は行くぞ」


 その言葉を言ったのは、レオンハルトだった。ベルとエリスは、彼の下へ駆け寄り、


「レオン、もう行くの?」


「ああ。世界は広いからな、きっと何処かに、俺の腕を直す方法があるはずだ」


 そう言って、レオンハルトはグリフの鼻面を撫でた。


「たまには顔を見せてくださいね。僕達は一緒に戦った仲間なんですから!」


 ベルがレオンハルトに手を出し出す。それを無表情のまま暫く眺めていたレオンハルトだが、


「仲間かどうかは知らんが……、まあ、近くに来たら寄るさ」


 口元に微笑を浮かべ、ベルの手をしっかりと握り返した。


 その上に、エリスの手が重ねられる。三人が笑みを浮かべて別れを惜しむ。



「いやぁ、立派なお店でねぇ」


 その時、一人の商人風の男が、店の前で立ち止まった。ベルはその男をどこかで見たような気がしてならなかった。


「私は王都でその人有りと言われた魔映機マン、ボブです。このお店は実に素晴らしい、是非とも一枚撮らせて下さい」


 魔映機とは、形は両手で持てる程の木箱で、その正面には、大きなレンズがはめ込まれている。そして、箱に魔力を込めることで、レンズに移った景色を、箱の中に仕込んだ紙に、絵として写し出す事が出来るという、最近王都で開発された、最新の道具だ。


 魔映機を構える男を見て、ベルは数日前、ウィンドヘルムで開かれた市場にて出会った男を思い出した。


「あっ! あなたどこかで会ったと思ったら、薬剤師のボブさんじゃないですか!」


「薬剤師のボブは死にました」


「えっ! 死んじゃったのっ?」


「そして今は、新しく生まれ変わり、様々な風景を撮る魔映機マン、ボブとなったのです」


 ボブは白い歯をむき出しにして、ニカっと笑った。


「魔映機か、あんた、いい物もってるじゃねぇか。せっかくだし、皆の集合絵でも撮ってもらおうぜ」


 ギリアムの提案に反対する者は居なかった。後ろの列には左からマスター、ギリアム、レオンハルト、グリフが並び、前列には、左からエリス、ベル、マリーが並んでいる。


「そうそう、写真のタイトルも、魔力で書く事ができるんですが、タイトルはこの店の名前と同じにしてみてはいかかです?」


 ベルは頷く。


「いいですね。じゃあ、それでお願いします」


「そう言えば、この店の名前はなんというのですか? 看板はまだ出てないようですけど」


 ボブが質問をすると、


「帰ってきたファルスです」

「真・踊るブラモス亭だ」

「ギリアム・キングダムだぜ」


 ベル、マスター、ギリアムが同時に答えた。三人とも不思議そうな顔をして「えっ?」と、顔を向き合わせる。



「エターナル・レジェンド」



 エリスが言った。


「古代の言葉で、永遠の伝説っていう意味なの」


 マスターが、ベル、エリス、レオンハルト見て、


「伝説ったってなぁ……、お前達三人はともかく、俺達は伝説に残るような事なんかしてねぇぜ。それに、お前達が魔王を倒したって事も、世間には知られてねぇんだろ?」


「だから、今度はあたし達の手で新しい伝説を作っていくのよ! 未来に生きる人達の模範となるような、永遠に残る伝説をね! そしてここは、その始まりの場所!」


「具体的には、何をするんだよ?」


 エリスは顎に手を当てて考えた。やがて、答えが出たらしく、誇らしげに笑うと、


「分からないわ。時間はたっぷりあるんだから、これから考えましょうよ。皆で」


 エリスがその場に居る全員を見渡した。活き活きとした表情で語るエリスを前に、異義を唱える者はいなかった。ギリアムはやれやれと肩をすくめて、


「まっ、いいんじゃねーの?」


「俺も、異義はねぇぜ。嬢ちゃんの意見に賛成だ」


「そうだね。僕もエリスの意見に一票」


 満場一致で決まった。本来なら、店の関係者ではないギリアムの意見は却下なのだが、突っ込む者は誰も居なかった。


「それでは、ボブさん。タイトルは、『エターナル・レジェンド』で、お願いします」


「エターナル・レジェンドですね、かしこまりました! 紙は一枚しかありませんので、くれぐれも、他人に悪戯なんかしないでくださいね~!」


 ボブが魔映機を構える。目の前で満面の笑顔で待機しているベルを見て、再び悪戯心が芽生えたマスターが親指を立てながら、「やるか」という視線をギリアムに向けた。


 ギリアムは、マスターの目を見て何をしようとしているのか理解し、親指を立てながら、「心得たぜ」という視線を返した。



「はーい、笑って下さ~い! 三、ニ、一!」





 カシャ。魔映機のシャッターが降りる。






 その日の夕方、さっそく魔映機によって写し出された絵が出来上がり、エリスはそれを店のカウンター内の壁に飾った。


 完成した絵は、後ろでやらしく笑う大人気ない大人(二名)が、ベルの顔をエリスの胸に押し付けているという、滑稽なものだった。


 だが、絵を眺めるエリスは笑っていた。


 もう、一人ではない、ベルや仲間たちと一緒に居られるだけで、エリスは幸せなのだ。


 エリスは、この幸せが末永く、できるなら、永遠に続いて欲しいと思っていた。


「エリスー、晩御飯ができたよ!」

「今日の晩御飯、何?」

「シチューだよ」

「肉は?」

「勿論、大盛り」

「やったね!」


 二階から聞こえてくるベルの声を聞き、漂ってきたシチューの香ばしい匂いを嗅いだエリスは、元気よく階段を駆け上がった。


Eternal Legendこれにて終わりです。


自分は、ファンタジー物が好きでして、使い古しだとか、ありきたりだとか言われている、魔法や魔物や魔王を見ると、心が奮えます。

そんな奮えを、この作品に込めました。この想いよ! あなたにとどけぇええ! 届いてくれたら、とても嬉しいです!


続編の構想はあるのですが、いかんせん筆が遅いので、完成するかは分かりません(汗


ご愛読ありがとうございます!

感想や叱咤激励をいただければ、とても嬉しいです!

それでは、また後書きでお会いできる日が来るまでしばしのさよならを!


~以下、嘘予告~


ベル「なんだって!? デストロスが生きていた!?」


デストロちゅ「うふふ、そうよ! 見くびらないでよね!」


ギリアム「何!? しかも角生えロリ娘になっている……」


レオンハルト「エターナルレジェンド、ますます目が離せないぜ!」


マジーク「ふっふっふ、私を忘れていませんか?」


マリー「誰、この人?」


マジーク「……orz」


エリス「私たちの戦いは、これからよ!!」



エリスとベルの愛が、世界を救うと信じて!

   Eternal Legend

~恋と魔法のサマーバケーション~


近日公開!!!

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