8、絶望と希望
「おい」
急に聞こえてきたレオンハルトの声に驚き、二人は心臓が張り裂けそうになった。反射的に顔を離し、声がした方を振り向く。
「無事で何よりだ」
月を背にして、グリフにまたがったレオンハルトが、エリス達を見下ろしていた。
「れれれ、レオンハルトさん!」
「先程まで気絶していたから、結末は見ていないが、どうやら魔王を倒したようだな」
魔王が居ない事を確認したレオンハルトが呟いた。
「レオン、あなたいつからそこに?」
「ついさっきだ」
「じゃあ、見てないのね?」
「……ふっ」
無言でエリスとベルを見た後、レオンハルトは初めて口元に笑みを浮かべた。
「ちょ、ちょっと! ちゃんと答えなさいよぉ!」
「そ、そうですよ! レオンハルトさん!」
「接吻がしたければ、俺に構わずすればいい」
レオンハルトに見られていたという事実は、エリスとベルの顔を赤く染め上げた。
「どうでもいいが、早く乗れ。直ぐにここを離れるぞ。でないとあの騒ぎだ、間違いなく、役人が来て、色々と面倒な質問をされるぞ」
「乗れって、あたし達がそのグリフォンに乗ってもいいの?」
「心配するな。グリフは、人間五人分の重量には耐えられる。それに、お前達は、歩く力も残っていないだろうからな」
「随分と丸くなったわね、レオン。ついさっきまではツーンとしてたのに」
「歩いて帰れ、そして死ね」
「あぁごめんごめん! 乗せて乗せて!」
エリスは立ち上がり、フラフラとした足取りでグリフへと近寄った。
だが、ベルは悲しい顔をしている。悔しそうに拳を握り締めたベルは、
「本当なら、ティンクルベリーの皆も逃がしてあげたかったのに……」
「ああ、それなら多分大丈夫よ」
エリスは笑みを浮かべている。だが、何故大丈夫なのか、まったくもって見当がつかないベルは、訝しげな顔をした。
「とにかく、帰りましょう。ウィンドヘルム村に」




