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4、三人の力


 魔王は、硬直から覚めた。そして、辺りの惨状に目をやり、口元を緩ませる。


「喜ぶのはまだ早いわよ」


 聞こえる筈のない声を耳にした魔王は、驚きながら視線を下へと向けた。


 そこには、剣を構えるレオンハルトと、刀身を出現させていない聖剣を握ったエリスが居た。


『我の全身全霊の一撃を受けても、立ち上がってくるとは……。素直に褒めよう』


「お褒めに預かり、光栄ですわ」


 全然嬉しくなさそうに、エリスは言った。


『だからこそ言おう、我の配下となれ、そうすれば、貴様達三人だけは、生かしておいてやろう』


「お生憎様だけど、私達は魔族に心を売るほど、落ちぶれていなし、絶望もしていないわ」


『愚かな……』


「例え相手が魔王であっても、希望がある限り、私達は負けない!」


 エリスは、右手に持った炎剣ヴォルテクスの柄頭に、左手に持った水剣オルカノスの刀身が出る部分を繋げた。


 ただくっつけて訳ではなく、両方の剣は、しっかりと固定されている。


「我が意思よ、光の刃と化せ!」


 合体し、一つとなった聖剣から、巨大な光の刀身が生み出された。


 エリスの身長と同じ長さをしたその剣が、神々しい光を放ち、辺りを照らす。


「あたしの名はエリス・リンドバーグ! 五十年前、あなたを封印した伝説の英雄、リリス・リンドバーグの孫よ!」


『我は人間の姿と名前など、一々覚えていない』


「例え覚えていなくても。魔王! 五十年の時を経た今、今度こそあなたを討つ!」


エリスが光の大剣を振りかざし、魔王へと踏み込んだ。


「喰らえぇぇ!」

『グオォォオ!』


 エリスの光の大剣と、魔王の拳がぶつかり合う。


『な、何だと!』


 ぶつかり合いに負けた魔王の右拳が、粉々に砕かれた。


 その先で、大剣を振り抜いたエリスが、不敵に笑っている。


 その姿が、魔王の記憶の底に微かに残っている、一人の人間の姿と重なった。



『燃えるような赤髪、忌々しい真っ直ぐな目……! そうか、お前は我に立てついた、自らを最強の剣士とほざいていた女の子孫か!』



 記憶を掘り起こした魔王は、エリス達の後方で精神統一をしているベルを見て、


『成る程。ならば、あの蒼いローブの小僧は、最強の魔術師とほざいていた男の子孫だな』


「やっと思い出したようね」


『ああ、ハッキリと思い出したぞ。人間如きが我を封印した怒りをな!』


 魔王の右腕が瞬時に再生される。そこにありったけの魔気を纏わせた魔王は、それをエリスに突き出した。


 エリスは目の前で剣縦に構え、魔王の拳を受け止めた。だが、凄まじい威力に、エリスの体は地面を削りながら、二メートル程後ろに押し戻される。


「残念だが、今回は一人と一匹がついている!」


 大地を蹴り、高々と跳躍したレオンハルトの剣と、上空で待機していたグリフが、魔王へと襲い掛かる。


「でやぁぁああ!」


 レオンハルトは、治りかけていた魔王の右目に突き刺した。


 激しい咆哮をあげ、魔王はレオンハルトを左手で掴み、地面へと叩きつけた。レオンハルトの体が大地にめり込む。


「がはっ!」


「キュアアア!」


 主人が攻撃された事に怒ったグリフが、鋭い爪を魔王の背中につき立てた。


『何かと思えば、出来損ないのグリフォンか! 退け!』


 魔王の体から衝撃波が生まれ、グリフを弾き飛ばした。


 バランスを崩しながらも、上空に舞い戻ったグリフは、旋回して反撃の機会をうかがっている。


「たぁあああ!」


 間髪入れず、エリスの一閃が放たれるが、その攻撃を予測していた魔王は、魔気を集中させた拳で、それを受け止めた。


『何度も同じ手が通用すると思うなよ、人間がぁああ!』


 エリスの大剣を握り締めたまま、魔王の拳が高く持ち上がり、それを思い切り地面に叩きつけた。


「かはっ!」


 レオンハルトと同じように、エリスの体が地面へとめり込んだ。


 凄まじい衝撃に、体中の臓物が破裂したのではないかと思ったエリスだが、歯を食い縛って痛みに耐える。


 そして、ボロボロになった体に力を入れたエリスは、何とか立ち上がった。


 その横で、レオンハルトも大きく肩で息をしながら、立ち上がる。


 体は損傷しているが、二人の目は死んでいない。絶対に勝つという信念がにじみ出ている。


『屈辱だよ。人間如きが、我の攻撃を受けながら、何度も立ち上がってくるとはな……』


 魔王の低い声は、怒りに震えている。体中の筋肉を膨張させた魔王は、


『貴様ら全員、皆殺しだぁああああああ!』


 魔王は、体中から魔気を立ち上らせながら、今までとは比べ物にならない規模の衝撃波を生み出した。


 踏ん張りのきかないエリスとレオンハルトの体が、軽々と後方に吹き飛ばされた。


 ゴロゴロと地面を転がった二人の体が、ベルの前に横たわる。



「二人とも……、こんなボロボロになるまで頑張るなんて……」


 魔力を溜めながら、勇猛果敢に魔王へ戦いを挑んだ二人の姿を見ていたベルは、感謝のあまり涙ぐんだ。


 両手を天高くあげ、右手と左手を頭の上で軽く交差させた状態で立っているベルを見たエリス達は、体を小刻みに震わせ、地に剣や手を立てながら立ち上がる。


 凄まじい魔王の攻撃によって、髪を結っていた紐が切れ、真っ直ぐなストレートヘアとなったエリスが、


「べ……ベル、光の魔術は?」


「お、俺達の体は、……そろそろ限界に近いぞ」


「もう少し、三分……いや、一分あれば!」


『せめてもの情けだ、寂しくないよう、三人まとめて地獄に送ってやろう』


 だが、一分は、この場においては限りなく長い時間だった。


魔王の口が開かれる。そこに、圧縮された魔王の魔力が集まっているのだ。


 ベルが術を完成させる前に、魔王の攻撃がベル達を襲うだろう。


『粉々に吹き飛んでしまええええ!』


 魔王の口の中が赤く光る。圧縮された魔王の魔力が、巨大な赤いボール状の赤球となって、ベル達に放たれた。


 射線上にある大気と大地を吹き飛ばしながら、猛然と近づいてくる魔王の一撃を前にしたエリスとベルの脳裏りを、『死』の一文字が横切った。だが、


「おおおおおおお!」


 雄叫びをあげたレオンハルトは、傷ついた体に残された力を振り絞って、迫る巨大な赤球へと向かっていったのだ。


「レオンハルトさん、無茶です!」


「レオン、何を考えているの! やめなさい!」


「俺に、命令するなぁぁああああ!」


 剣を左手に持ち替え、両手を頭の上まで振りかざしたレオンハルトは、赤球に衝突する寸前に、それを振り下ろした。


「うぉおおおおおお!」


 レオンハルトの体が悲鳴をあげる。


 筋肉の一本一本が悲鳴をあげ、体中の骨と言う骨が、バラバラに砕けてしまいそうな感覚を、レオンハルトは歯を食い縛って耐えた。


 左手に握っている魔気を纏った剣に亀裂が生じ、同じく魔気を纏わせている右腕は、焦げ臭い匂いを発しながら、赤球が発っする熱気に焼かれている。


 魔王の圧縮された魔力が、凄まじい威力と熱を伴っている証拠だ。


 だが、レオンハルトは諦めなかった。絶対に負けたくないという気持ちもあるが、ベルとエリスに繋げる事で、魔王を倒せる。


 そんな根拠の無い希望が、レオンハルトの中に溢れていたのだ。


「人間を……、この俺を舐めるなぁあああ!」


『何とっ!』


 レオンハルトが両手を振り抜いた時、剣は砕け散り、右腕は激しく焼け焦げていたが、見事に魔王の赤球を半分に切り裂いたのだ。


 二つに切り裂かれ赤球は、レオンハルトの左右に分かれて飛び、遥か後方で地面に衝突し、同時に爆発して消滅した。


「魔王ぉぉおおおお!」


 レオンハルトは魔王目掛けて駆け出す。そして、残された力を右拳に手中させて、それを魔王に突き出した。


 魔王も対抗するように、低い位置から、右拳をレオンハルト目掛けて振りあげた。


『ヌァアアアア!』

「っ!」


 レオンハルトの特攻も虚しく、魔王のアッパーがレオンハルトに直撃した。レオンハルトの体は突き上げられ、成す術もなく天高く吹き飛ばされる。


 だが、吹き飛ばされ、意識が薄れながらも、レオンハルトは笑っていた。何故なら、自分の視線の先にあるモノを見て、自分達の勝利を確信したのだ。



「く……た……ば……れ」



 レオンハルトは魔王に向けてそう呟くと、ゆっくりと目を閉じた。

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