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3、魔王の力



『キ……サ……マ……ラ』



不意に魔王の声が聞こえ、三人の顔が強張る。三人は一斉に魔王へと視線を向けた。


 魔王の巨体が微かに震えている。ベルの渾身の魔術をその身に受け、全身黒焦げになりながらも、魔王は生きていたのだ。


「そ、そんな……。魔王には、僕の魔術が効いていないのか?」


「いえ、確実に効いてるわ、後一押しよ!」


「俺が止めを刺そう」


 そう言って、レオンハルトは魔王へ駆け寄ろうとしたが、


「待ってレオン! 様子が変だわ!」


「何だと?」


魔王の体全体に魔気が集中し、大地と大気が振動し始めた事に気付いたエリスが、レオンハルトを呼び止めた。


魔王をジッと見つめていたエリスの背筋が凍り、全身に悪寒が走った。


「レオン、戻って! ベルはありったけの魔力を込めた魔力障壁を出して!」


「え、どうして? 魔王が弱っている今がチャンスなのに」


「いいから早く!」


 エリスの必死の形相を見て、レオンハルトとベルは、素直にエリスに従った。


 三人が集まった事を確認したベルが、魔力障壁を作り出す。


「レオン、あなた魔力障壁は使える?」


「使えるが、それがどうした?」


「あたしも、ベル程じゃないけど魔力障壁が使えるわ。ベルの作り出した障壁の上に、私とレオンの障壁を上乗せさせるのよ!」


「三重の魔力障壁だと? 確かに魔王は強敵だが、今は守りより攻めを」


「……お願い、言う通りにして」


 今すぐにでも魔王に止めを刺したかったレオンハルトだが、何かに怯えているエリスを前にしては、何も言えなかった。


 レオンハルトはしぶしぶながらも、ベルの作った魔力障壁の上に、更に魔力障壁を生み出した。


「あたしも」


 レオンハルトの魔力障壁の上に、エリスの魔力障壁が生み出される。魔力障壁が三重にも重ねれば、どんな攻撃にも耐えられるだろう。


だが、三重の魔力障壁の中に居ても、エリスは怯えていた。


「くるわよ!」


 エリスの表情が厳しくなる。


 レオンハルトとベルは、エリスの視線の先にある、死にかけた魔王を見た。特に恐れてはいない二人だったが、



『グオォアアアアアアアアア!』



 魔王の赤い目が鋭く光り、あらゆる物を震撼させる雄叫びをあげた魔王を見て、初めて事の重大さに気が付いた。


 魔王を中心に、巨大な魔力の渦が発生し始めたのだ。


 本来、視認する事はできない魔力だが、高圧縮された魔王の魔力は、目に見える形となって現れている。


「なんだ、あの桁外れな魔力は! 奴は何をしようとしている!」


「嘘だ、あんな魔力……、僕達の理解を遥かに超えている! ありえないよ!」


 レオンハルトとベルは、エリスが何故怯えていたのかを理解した。


魔王がどのようなを攻撃が繰り出されるのかは不明だが、少なくとも、とてつもない一撃が放たれるという事だけは分かったのだ。


『人間如き下等生物が、我に歯向かうとわ……、許さぬ!』


「くるわよ! 魔力を限界まで開放して!」

 エリスに言われずとも、二人は魔力を限界まで解き放っていた。


『許さぬぞぉぉおおおお!』


 魔王の体が光った。次の瞬間、魔王を中心に、半径五km程まで及ぶ大爆発が起こった。


 轟音は、遥か地平の果てまで届き、爆発は、地面や木々を抉り、爆風は、範囲外の木々を根こそぎ吹き飛ばした。


 地面は激しく揺れ、まるで、あまりの衝撃に大地が泣いているかのようにも思える。



『オオオオオオオオオオオ!』





 やがて爆発が収まり、荒野と化した地にベル達は立っていた。


 丘だった場所は地平となり、先程まで町があったはずの場所は、大地が裂けて大きな崖となっていた。


もうもうと天高く舞い上がったキノコ状の煙が、上空に溜まった魔気と合わさって月の光を遮り、辺りに闇をもたらした。


 立ち込める砂埃と煙の向こうに居る魔王は、全身全霊の一撃を放った反動で、硬直している。


「め、めちゃくちゃよ……。何て事をするのよ、魔王って奴は……」


 もし、三人の内の誰かが魔力の出し惜しみをしていたのなら、間違いなく爆発により魔力障壁は壊され、三人は全滅していただろう。


「俺達人間とは、次元が違う……。魔王と呼ばれるだけの事はある」


 本気の魔王の一撃を前にしたレオンハルトが、舌打をする


 。一見、余裕のある表情をしているが、その体は微かに震えている。


「チクショウ! 町も、人も、自然も、何もかもボロ屑のように吹き飛ばしやがって……!」


 ベルが拳を握り締めて、怒りのあまり口調を荒げた。


「私達には……、もう魔王に対抗する手段が無い」


「万策尽きた……か」


 塗り替える事が不可能な力の差を感じたエリスとレオンハルトの脳裏に、敗北の二文字が浮かぶ。


 だが、ベルにはまだ秘策があった。


 祖父が残してくれた魔術書に書かれていた、究極の魔術。


 今まで一度も唱えた事が無い、寧ろ、魔力や経験不足によって、唱える事が不可能だった魔術だ。


 だが、魔王に致命傷を与えられる魔術はないかと自問して、それ以外の魔術は思い浮かばなかった。


 覚悟を決めたベルは、


「二人とも、時間を稼いでくれないかな?」


「ベル……、あなたの使える最強の魔術であるドラゴニック・ロアーが通じなかった今、認めたくないけど、あたし達に勝てる見込みはないわ」


「使える魔術では……ね」


「もしかして、まだ何か、凄い魔術を隠し持っているの?」


「うん。僕のお祖父さんが、長い年月をかけて編み出した、究極の魔術……。その名も、クリエイテッド・シャイニー」


 聞いた事の無い魔術名に、エリスは首を傾げた。


「それは、どういった魔術なの?」


「全ての邪悪なるものを照らす光を生み出す魔術だよ。分類的には光に属するんだと思う」


「光の属性? そんなの聞いた事無いわよ。癒しを司る白魔術は回復専門だし、黒魔術の種類は大きく分けて、『火』『水』『風』『地』『雷』の五つしか存在しないんでしょ?」


 ベルは頷いた。そして、祖父の残した魔術書の最後のページを開き、それをエリス達に見せながら、


「そう。だから、この魔術は、黒魔術にも白魔術にも属さない、光の魔術なんだ」


「あたしは、魔術は広く浅くしか知らないからよく分からないけど。ベルがそこまで自身満々に究極って言うんだから、相当凄いんでしょうね」


「ごめん、本当のところは、僕にもよく分からないんだ。僕自身、修行不足だから今まで一度も唱えた事がなかったから。けど、ここに書かれている事が本当なら、とてつもない魔術だよ、これは」


 ベルの言葉を聞いたレオンハルトは、何も言わずに魔王へと歩き出した。


「レオンハルトさん、お願いです。もう一度、力を貸してもらえませんか?」


 レオンハルトは立ち止まり、


「時間稼ぎは任せろ」


 そうぶっきら棒に言うと、再び歩き始めた。ベルとエリスは、そんなレオンハルトの言葉を聞いて、頬を緩ませた。


「じゃあ、あたしも行くわ。ベル、期待してるわよ」


「任せて」


 レオンハルトの後を追いかけようとしたエリスだったが、開かれた魔術書の右隅の挿絵を見て、思わず足を止めた。


「これは……、まさか」


 挿絵は、一振りの巨大な剣が描かれているもので、その横には、『聖剣ライトニング』という文字が書かれていたのだ。


 エリスは、聖剣ライトニングと書かれている最後の一文を読む、


「偉大なる剣士、リリスが振るいし伝説の聖剣ライトニング。その輝かしい光の刀身を見た私は、光の魔術を生み出す事を決意した……、ですって? と、いう事はまさか」


 エリスは、両手に持った聖剣を交互に眺めた。そして、聖剣の真の使い方に気が付いたエリスは、魔王に対抗できるかもしれないと考え、思わず微笑を浮かべた。


「エリス、どうしたの?」

「ううん、なんでもないわ!」


 そう言って、エリスはレオンハルトの後を追いかけた。


 嬉しそうに魔王へと向かっていくエリスの心境が分からなかったベルだが、気持ちを落ち着かせ、魔力を高める為に、精神統一を始めた。

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