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5、忍び寄る魔


 真っ赤な絨毯が敷かれた屋敷内の廊下を、エリス達は走っていた。


 人の気配はしない。恐らく、全員総出でティンクルベリーの町に行ったのだろう。


「エリス!」


 ベルは走りながらエリスへと呼びかける。


「さっきも言ってたけど、マジークは、きっとまだ何かを隠しているよ」


「そうね。けど、だからって立ち止まる訳にはいかないわ」


 エリスは目の前に迫ってきた扉を蹴破りながら言った。


「それにしても、大きすぎよこの屋敷! 何枚ドアを蹴破ればいいのよ!」


「今のでちょうど三枚目だから、そろそろハインデルツの部屋に辿り着いてもいい頃だと思うんだけど」


 すると、目の前に特別大きな両扉が見えてきた。


「きっとあそこだよ!」


 エリスは、ベルの言葉に頷き、走る速度を速めた。そして、渾身のドロップキックを扉に向けて放つ。


「らっーー!」


 蝶番が弾け飛び、扉は縦に数回転がりながら、部屋一面に敷き詰められた赤絨毯の上に倒れこんだ。


「ハインデルツ! これ以上あなたの好きにはさせないわ!」


 人を三百人程呼んでダンスパーティーでも開けそうな広さの部屋に、エリスの声が響く。


 反響した声が聞こえなくなり、静寂が戻った部屋を、エリスは見渡した。


 部屋の奥が、薄布で作られたカーテンで仕切られている。それを見たエリスは、その奥にハインデルツが居ると直感的に感じた。


「随分と寂しい部屋ね。それに、窓が無いのに明るい」


「きっと、部屋の壁に、暗闇で発光する鉱石、ライトストーンが混ぜられているんだよ」


 後から追いついたベルが、エリスに説明した。


 そしてベルは、部屋の中央で、宙に浮かぶ三つの物を見つけて、それを指差した。


「エリス! あれっ!」


「炎剣ヴォルテクス、水剣オルカノス、そして召魔の壷だわ!」


 二人は辺りを警戒しながら、部屋の中央へと進んだ。手を胸の前に突き出さば取れる位置に、三つの道具は浮かんでいた。


「マジークの魔力で浮いているのか、……それとも、ハインデルツの魔力かな?」


 ベルは、部屋の奥を見つめる。カーテンで仕切られている所為で分からないが、何か嫌な気配を感じていた。それはエリスも同じで、カーテンの向こうをしきりに気にしている。


「とにかく、聖剣が手に入ればこっちのものよ!」


 エリスが宙に浮かぶ聖剣へと手を伸ばす。罠の可能性があり、危険だと制止をかけようとしたベルだったが、言うより先に二つの聖剣はエリスの手中に収まっていた。


「ハインデルツ! あなたの野望もここまでよ!」


 エリスは水剣オルカノスを左手、炎剣ヴォルカノスを右手に握り締め、


「我が意思よ! 炎と水の刃と化せ!」


 そう叫ぶと同時に、エリスの手にした聖剣から、美しい水の刃と、猛々しい炎の刃が生まれた。


「そうか! 伝説によると、召魔の壷は、竜族の炎か、エルフ族の魔力で封じ込めた後でしか壊せない代物。だから、エルフの神の力が宿った水剣と、竜の神の力が宿った炎剣で同時に攻撃をすれば!」


「ええ、きっと壊せる筈よ。いえ、壊してみせる!」


 エリスは自身に満ち溢れた表情で頷いた。


 深く深呼吸をした後、エリスはゆっくりと身を屈めた。そして、目の前の壷に狙いを定め、左右の手に握った聖剣の同時攻撃を加える。


「やぁ!」


 エリスの狙いは正しかった。聖剣の同時攻撃を受けた召魔の壷は、見事に両断された。

 それを見たエリスとベルは、歓喜の言葉を口にしようとしたが、


「な、何なの、これ?」


 エリスの喜びは一瞬にして消え去った。召魔の壷から、大量の魔気が勢いよく、煙のように噴出したのだ。


 そして、この事態を心待ちにしていた者がいる。





「ふふふ、ついにやってくれましたね」


 マジークだ。レオンハルトと鍔迫り合いをしていたマジークは、今まで感じた事のない魔気の存在を感知し、戦闘中にもかかわらず、笑みを浮かべた。


「貴様、ふざけているのか?」


 マジークの表情を見たレオンハルトが怒る。バカにされたと思ったのだ。


「いえいえ、とんでもありません。ただ、予定通りに計画が進んだので、素直に喜んでいるのですよ」


 レオンハルトの剣をいなし、マジークは高く後方へと飛んだ。


 屋敷の入り口の真上にある屋根に着地したマジークは、両手を広げながら、


「時は満ちた! 私が世界の覇者となる時がきたのだ! フハハハハ!」


 高笑いをした後、マジークの体はその場から消えた。空間転移の陣を使ったのだ。


「……中か」


 屋敷内部で何かが起きている事を感じ取ったレオンは、ハインデルツの部屋へと走りだした。

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