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第五章 1、ティンクルベリー



 ティンクルベリー。


 ほんの数十年前までは、大陸有数の鉱山の町として栄えていたのだが、度を越した採掘が仇となり、ここ十年間、鉱石はめっきり採れなくなってしまっていた。


 絶頂期だった当時は多くの人々で町は賑わっていたが、鉱石が採れなくなった今、その人口は右肩下がりの道を辿っている。


 今この町には、三百人程度の住人しか残っていない。


「前に来た時は夜だったから気付かなかったけど、ここって随分と寂しい町だったのね」


 エリスは、鉱山の町にしては人通りの少ない道を見渡しながら言った。


 風が吹くたびに舞い上がる、赤茶けた砂埃が、どこか空しさを煽る。


 両端に並ぶ家や店からも、人の気配が感じられない。窓を板と釘で塞がれた建物が、幾つも見受けられる。そんな光景を見て、ベルは寂しそうに眉をひそめた。


「これでも、僕が五歳くらいの頃は、とても賑やかだったんだ」


「鉱山が採れない鉱山の町か……。悲しいけど、廃れるのは仕方ないわね」


 エリスはそう言いながら、天を仰いだ。日は既に傾き始めている。


 ベルとアリスが、何度か休憩も挟みながら走り続けた結果、二人がティンクルベリーに到着した時刻は、午後三時だった。


「エリス、時間が無いよ。ハインデルツさんの屋敷を早く見つけないと」


「だけど、寂れているとは言え、この町は広いわ。手当たり次第に探すのは、時間の無駄ね」


「じゃあ、どうするの?」


「今まで忘れていたけど、あたし、ちょっと前にこの町に寄ったんだけど、その時ハインデルツについて知っている人と会ったのよ。その人に聞きに行きましょう」



『踊るブラモス亭』



 エリス達は、その店の前で立ち止まった。


 店からは、既に楽しそうな男達の笑い声と、グラスがぶつかり合う音が漏れている。


「ここよ」

 エリスは店のドアノブを握った。使い古された蝶番が鳴きながら、扉が開かれる。


「いらっしゃい」


 男達が酒や料理を楽しんでいる店の奥、カウンター内に居る大男が、野太い声で挨拶をする。


 しかし、入店してきた意外な人物を見て、小さな目を少しだけ大きくさせた。


「久しぶり、マスター」


 エリスがニッコリ笑顔で挨拶をする。


「嬢ちゃん、お前まだこの町に居たのか」


「違う違う、ちゃんとウィンドヘルム村まで行ったわよ」


「じゃあ、今日はどうした、何か忘れもんか?」


「忘れモノと言うより……、探しモノね」


 一瞬、真剣な瞳をしたエリスの顔を見て、マスターは何か訳ありだという事を感じ取った。


 そして、黙ってグラスを二つ取り出し、それに、氷三つとたっぷりのフラワージュースを注ぎ込んだ。


「立ち話もなんだ、こっち来て座んな」

「さすがマスター、話が分かる」


 ぞろぞろとカウンターへと足を運ぶエリス達。カウンターに座った二人の前に、フラワージュースが差し出された。


「とりあえず飲め。何をしてたのかは知らんが、嬢ちゃんとそこの坊主、疲れてるのが目に見えてるぞ」


「ありがとマスター。ベル、遠慮なく頂きましょう、このジュース、疲れも吹っ飛ぶくらい美味しいんだから」


「マスターさん、頂きます」


 二人は喉を鳴らしながら、ジュースを一気飲みした。


 そして、甘い果汁が体全体に染み渡った時、自分達がいかに渇き切っていたかを知った。


 そんな光景を見たマスターは、


「お前ぇら、何かヤバイ事に首を突っ込もうとしているんだろ?」


「凄い! マスター、よく分かったわね」


「長年酒場のマスターなんてもんをやってると、感が冴えてくるんだよ」


 マスターは得意げに言うが、ベルは本当にそうなのだろうかと疑っていた。


「その俺の感が言うんだよ、お前ぇらは只者じゃねぇってな」


 マスターは一転して真剣な表情をした。それに合わせて、ベルとエリスも表情を変える。


「何があった……、話してみろ」

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