4、魔族
「聞きたい事は二つ。ハインデルツの目的と、何故あなたがハインデルツなんかに手を貸しているのか、答えなさい」
「ハインデルツの目的は、魔族召喚だ。だが、ハインデルツが魔族に何を願うかは知らない。俺も奴の願い事には興味が無いからな」
「だったら、何でハインデルツに肩入れするのよ……、まさかとは思うけど」
「ハインデルツ達は、俺の腕を元に戻すと言った」
「やっぱり、そうきたわね」
レオンハルトは無表情ながらも、どこか悲しみを帯びた顔をした。
「父の研究材料となった俺の右腕は、完全に魔族化している。俺の体と魔族の血は深く混ざり合ってしまい、もはや白魔術では治療は不可能な状態だ。それにこの右腕は、今でも隙あらば俺の意識を乗っ取ろうとしている」
「だから、召魔の壷を使って、あなたの体の中に眠る魔族の部分を、召喚という形であなたの体から引き離し、ハインデルツがその魔族に願を叶えてもらうってもくろみね」
「そうだ」
「それは危険な賭けよ。あなたの右腕は魔族の血によって変化したもの、それを魔族召喚によって切り離せる保障なんてないわ。それに、もし成功したとしても、その魔族が人間の言葉を聞き入れるかどうかも分からない!」
魔族が人間に従うのは、自分の力を超える人間か、願いを叶える事で自分に何かしらのメリットがある人間だけなのだ。
しかし、魔族と人間は相容れない存在。召喚主に一時は魔族の力を貸し与えても、不要と見なすと、直ぐに召喚主を殺してしまう。
「危険は承知している。それに、魔族が歯向かおうとするのならば、この俺が魔族を叩き斬ってやる、この水剣オルカノスでな」
そう言って、レオンハルトは懐から水剣オルカノスを取り出そうとしたが、そこにオルカノスは無かった。
「何だと?」
慌てて、自分のマントが置かれている机の上を探してみるが、
「オルカノスが無い!」
「何ですって!」
レオンハルトの言葉に一番驚いたのはエリスだった。
聖剣は使い方を間違えれば、多くの命を奪う大量虐殺兵器へと姿を変える恐ろしい武器なのだ。その事は、エリスが一番よく分かっている。
「もしかして、僕の呪文とレオンハルトさんの剣がぶつかり合った時の衝撃で、どこかに飛ばされたのでは?」
「そんな筈はない! 俺は最後の一瞬まで、この手にオルカノスを握り締めていた!」
レオンハルトの一喝に、ベルは縮こまった。
「その質問には、私がお答えしましょう」
突然聞き慣れない声が治療室に響き渡り、全員が何事かと身構えた。
すると、床全体に淡い紫色の光を放つ陣が浮かび上がった。それを見たベルは、思わず目を見張った。
「これは空間転移の陣? バカな、こんな超高等魔術、かなりの高位に位置する魔族の魔力でなければ唱えられないはず!」
「おや、これが空間転移の陣と気付きましたか。人間にはあまり知れ渡っていない陣なのですが、よくご存知ですねぇ」
陣から放たれる光が増し、陣の上に、長身の男が姿を現した。
まるで今までずっとそこに居たかのように、物音一つ立てずにその場に現れた男を、ベル達は唖然たる面持ちで眺めた。