2、黒幕と、その野望
「変わった人ね、マリーさんって」
「いや、普段はとてもおしとやかな人なんだよ」
「あのババァ……、俺が完全復活したあかつきにはまっさきに報復してやる」
ギリアムは口に詰まったリンゴをなんとか抜き取り、それにかぶり付いた。
「ギリアム、報復より先に、奴らの事について話してちょうだい」
エリスが真剣な眼差しをギリアムへと向ける。たった数口でリンゴを食べ終えたギリアムは、口の中のものを飲み下した後、
「何から聞きたい? 俺が知っている範囲でなら答えるぜ」
「まず、聖剣を欲しがってる連中。奴らは何者なの?」
「聖剣を血眼になって探していたのは、鉱山の町、ティンクルベリーに住んでいる、ハインデルツって男だ。昨日の夜襲ってきた奴らは、全員ハインデルツの手先って訳だ」
聞き覚えのない名前に、ベルはギリアムへと尋ねる。
「そのハインデルツさんって、どういった人なんですか?」
「ティンクルベリーの豪邸に住む金持ちだが、相当の変人だぜ。何せ、誰の前にも姿を現さねぇし、自分の配下に紅色のマントを着せるんだからな」
「可笑しいと思わなかったんですか?」
「俺は金さへ手に入れば良かったんだよ。俺の他にも、破格の報奨金目当てで、ハインデルツの護衛や探し物を買って出ている奴らがいるぜ」
「そうだったんですか」
「最初はハインデルツの事を、趣味で聖剣を欲しがっている変人だと思っていたんだが、どうもそうじゃねえみたいだったんでな。お嬢ちゃんから奪ったばかりの聖剣と、奴らが聖剣と同じくらい大切にしていた壷を持って逃げたんだが……、結果は見ての通りだ」
ギリアムが自分の体を見て、自嘲する。
「ハインデルツは、何を企んでいるの? 彼の下から逃げたくらいだから、何をしようとしているのかくらいは掴んでいるんでしょ?」
エリスの言葉を聞いて、ギリアムは一呼吸置いてから、
「聖剣を奴らに届けた時に聞いちまったんだが、どうやら奴らは、この地に魔族を召喚しようとしているらしい。それも、かなり高位の魔族だ」
「な、何だって!」
ベルとエリスが驚きのあまり、ベッドから跳ね起きた。
魔族召還。長い魔術の歴史の中で、タブーとされているものだ。
特殊な陣と膨大な魔力が揃うと、魔界から魔族を召還できるのだ。だが、成功したものは皆例外なく召還した魔族によって悲惨な死を遂げている。
その昔、一国の王が、人間を超える力を持った魔族に不老不死を願うために魔族を召還したが為に、一夜にしてその国は滅んだと言う話がある。
「ギリアム。それ、間違いないの?」
「ああ。奴らは召還した魔族を倒す為に聖剣を欲していた。まあ、願いだけ叶えてもらったら、後はさよならって魂胆さ」
「ちょっと待って下さい! 魔族召還に壷ときたら……まさかあの壷は!」
「そう、召魔の壷だ」
ベルは事態の重さに耐え切れなくなり、力なくベッドに横たわり、エリスは深刻な表情で舌打をした。
「そんな! あのヘンテコな壷が召魔の壷だったなんて……」
「これはいよいよもってヤバくなってきたわね……」
召魔の壷。誰が何の目的で作ったのかは謎とされている、呪われた伝説の壷だ。
魔界とこの世界を繋ぐ鍵とも言われていて、壷自体が強力な魔力増幅器となって、一人の人間でも、高位の魔族を容易に召喚する事ができるとされている。
召魔の壷の厄介な所は、人間の力ではどう足掻いても壷を破壊できないという事だ。
この壷を破壊するには、ドラゴン族の聖なる炎で焼くか、エルフ族の魔力で壷の力を封じ込んだ後で砕くか、その二つしか壷の破壊方法は存在しない。
「とにかく、魔族召喚なんて絶対阻止! 断固阻止よ!」
そう言って、エリスはベッドから起き上がり、側の机に置かれた自分の装備を装着していく。
剣は昨晩の戦いで折れて無くなってしまったが、それ以外はいつも通りの剣士エリスの姿だ。