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7、謎の剣士、レオンハルト


 男は倒れたギリアムを暫くの間見つめていたが、やがて剣の血を振り払い、ゆっくりともったいぶった動作さで納刀した。


「いやぁ~、いつ見ても惚れ惚れする剣技ですねぇ」


 まるで戦いが終わるのを見計らったかのようなタイミングで、木々の間から一匹の魔物が姿を現した。魔術によって生み出された豚の魔物、オークだ。


 目の前のオークは、ボロボロの服を着用し、鉄を伸ばして作られた胸当てと大きな斧で武装をしている。


 背は低く丸々と太ってはいるが、自分と同じ大きさの斧を背負って何食わぬ顔で歩いているところから察するに、力はあるらしい。


「生意気なギリアムをこうも簡単に葬るとは、さすが旦那ですぜ」


「……マジークか」


「今のあっしの名前はピギーですよ! 何回言ったら覚えてくれるかねぇ、旦那は」


「その気持ち悪い喋り方、なんとかならないのか?」


「これがあっしのキャラなんでさぁ、気にしないで下せぇ」


 自らをピギーと名乗ったオークは、倒れているギリアムの頭を足で踏みつけた。


「あっしはね、このギリアムって男は前から気に入らなかったんですよ。弱い癖に人の事を豚呼ばわりするんでさぁ。だから旦那がこいつに一撃を喰れてやった時はそれはもう心が踊りましたね! へへっ! ざまぁ見やがれってんだ! こいつめ!」


 そう早口で捲くし立てると、ピギーは何度もギリアムの頭を踏みつけにした。


「ピギー、やめろ」

「でも旦那、こいつには色々借りがあるんですからこの機会に」

「やめろ」

「ブヒッ……」


 身も凍るような冷たい視線と声に、ピギーは体を硬直させた。


「へ、へへぇ! いやね、あっしも今やめようかなぁ~って思ってた所なんすよ! いやぁ、あっしは小さい頃から引き際ってのを知らないらしくって、仲間内からも」


「黙れ」

「ブヒッ」


 ピギーは短い両手で口を押さえ、言われたとおり黙った。


「……」


 男はもう一度ギリアムに視線を向けてから、何も言わずにその場を立ち去った。


「ちょ! ちょっと旦那ぁ! 待ってくだせぇ!」


 ピギーがトコトコとその後を付いて歩く。


「旦那、あっし、ずっとそこの茂みで話を聞いてやしたけど、あいつ、例のアレと聖剣の在りかは吐いたんですかい?」


「いや」


「そ、それは不味いですぜ旦那! あっしらの任務はあいつが持ち逃げした二つの物の奪還なんですぜ?」


「分かっている」


「肝心の奴が死んじまった今、その場所は依然謎のまま。計画実行の日はすぐそこまで近づいているんですぜ?」


「ピギー」


「何です、旦那?」


「黙れ」

「ブヒッ……」


 ピギーは又も短い両手で口を押さえ、言われたとおり黙った。


「隠し場所の見当はついている」


「えっ、本当ですかい?」


「ああ」


「教えて、教えてくださいよぉ旦那ぁ!」


「奴は一匹狼、頼れる人間などそうそう居ない」


 確かに……と、ピギーは頷く。


「そして俺たちが探す物には、探知の魔術、ディテクションが施されている」


「物を探し当てる魔術ですね。対象となる物品に魔術を唱えた者は、それがある場所を知る事が出来るんですよねぇ。因みにあっしが魔術を唱えやした! へへっ!」


 誇らしげに胸を張るピギーを無視して、男は話を進める。


「ディテクションが施されている事に気付かない程、ギリアムはバカではない」


「そこ何ですよねぇ、今日の昼前からパッタリと信号が途絶ちまいやして。おかしいですよねぇ、術を施した物が破壊されない限り、いつでも探知できるんですがねぇ」


「あの物は、二つとも人間の力では破壊不可能。だとすると……」


 言いながら、男は懐からこの周辺の地図を取り出した。


「考えられる答えは一つ」


 男は地図にある一点をジッと見つめた。


「俺達の探す物が、ディテクションの効力を狂わせる程の、強大な魔力を有した者の側にある」


「まさかぁ? ディテクションの魔術を狂わせる程の魔力を持っている者は、ざらにはいませんぜ?」


「確か、ウィンドヘルム村には、天空の魔術師 イウヴァルトの孫が住んでいるらしい」


 男は人差し指で、顔に付着した、まだ乾いていないギリアムの血を拭うと、それを先程からジっと見ていた地図の場所に押し付けた。そして、それをピギーへと渡す。


「ここだ。部隊編成をしておけ、近いうちに仕掛けるぞ」


「成る程……、次に血を見るのは、ここですかい? へっへっへ」


 ピギーはジュルリと涎を啜りながら、地図を見る。血が付いたその場所には、ウィンドヘルム村と書かれていた。


「半月か……」


 男は空に浮かぶ月を見ながら呟く。


「時間が無いな……。ピギー、急ぐぞ」

「はい、旦那ぁ!」


 男が左手で右腕を摩りながら言うと、二人は暗く沈んだ夜の闇えと歩き出した。

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