プロローグ
この作品には、非常にライトな残酷描写があります。
残酷描写とはいえないかもしれませんが、念のためここに注意書きをしておきました。
プロローグ 終わらない伝説
空には暗雲が立ち込め、荒廃した大地には人間の屍がいくつも横たわっていた。
むせ返りそうな腐敗匂が蔓延し、屍から流れ出た血が大地を赤く染め上げている。それらはまさに、この世の終わりを思わせる光景だ。
そんな中、世界を滅ぼそうとする魔王と、それを阻止しようとする人間の戦いに決着がつこうとしていた。
魔王に戦いを挑んでいる人間は、蒼色のローブを纏った青年と、燃えるような赤髪をした剣士風の少女だ。二人ともかなりの負傷をしていて、体のあちこちから血を流しているが、しっかりと大地に足をつけ、目の前の大敵、魔王を睨みつけている。
対する魔王は、大地に膝をつけて、五メートルはある赤黒い屈強な巨体を蹲らせていた。
『おのれ、おのれ……。この我が、魔族の王たる我が、人間如きにぃ……!』
魔王の低く、唸るような声が響く。
「今だ! 行けぇ!」
蒼いローブを纏った青年が、赤髪の少女に向かって叫んだ。
少女が力を振り絞って駆け出した。その手には、身の丈ほどの刀身をした光る大剣が握られている。
「やあああ!」
魔王の手前で、少女は大地を蹴り、高々と跳躍した。そして、眩い閃光を放つ大剣を上段に振りかぶり、
「魔王、覚悟!」
魔王の頭目掛けて、一気に大剣を振り下ろした。次の瞬間、声にもならない雄叫びをあげた魔王の体が、一刀両断にされる。
それを見た青年は、光輝く小石を右手に持
ち、それを掲げて詠唱を唱えた。
『オォォォオオオオオ!』
青年の詠唱に呼応して、眩い光が魔王を包み込む。その光が収縮し、魔王は三つの小さな光の玉に分裂した。
その三つの光の玉は、青年の頭、少女の胸元、そして青年の掲げた小石に、それぞれ一つずつ吸い込まれていった。
それから暫くして、小石はゆっくりと宙に浮かび、やがて空の彼方へと飛んでいってしまった。
魔王が消え、世界に再び平和が戻ったというのに、二人は沈んだ表情をしている。
少女は、光の玉が吸い込まれた自分の胸元を、そっと両手で抑えて、
「ねぇ、あたし達……勝ったのかな?」
「俺達は、やがて生まれてくるであろう子孫達に、重い宿命を与えてしまった。そういった意味では、俺達の負けかもしれない」
青年は、ゆっくりと空を見上げた。魔王が消えた事で、上空に溜まっている暗雲が徐々に晴れ、その合間から日の光が差し込み、大地を照らし始めていた。
「だけど、俺は信じている」
イウヴァルトは拳を強く握り締め、笑顔を浮かべた。
「俺達の子孫が、いつの日か本当の勝利を勝ち取ってくれるってな。だからその日まで、伝説は終わらないんだ」
一年位前に書いた作品です。
いろいろと読みづらい点があるとは思いますが、よろしくお願い致します。