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魔女と竜の契約。
それはこの世界を象徴するものであり、世界中の人間が知っていること。
『魔女と竜は、お互いを認め合い、お互いを助け合い、お互いの力を合わせ、お互い協力しあわなければならない。』
今から1000年も昔、世界暦445年に魔女と竜族が結んだ契約だ。
何でもその昔、世界はあらゆる種族のパワーバランスがめちゃくちゃで日々争いが絶えなかった。
このままでは世界が崩壊してしまうと考えた強き竜族の長は、あらゆる種族の中でもその未知なる力により世界中から危険視され蔑まされていた魔女達に歩み寄り、魔女達を虐げていた種族達をばっさばっさと己の力でねじ伏せ、このような契約を結んだらしい。
まあ元は魔女と竜の力は桁違いで、その他の種族たちが恐れていただけの争いだったわけでそこの2つが協力するんなら大人しくしてます、ってな感じだったんだろう。契約後、竜族の長のもくろみ通り世界には平和が訪れた。小さな小競り合いみたいなものはあったが、魔女と竜は協力しあい以後1000年間、世界の平和は保たれた。
結果オーライ。そんな平和な世界に俺は生まれた。そして、その竜族の長のように強い男になるために学校に通っている。
魔女と竜を育成するための機関、その名も魔法学園。単純明快でわかりやすい。
確かに世界は平和だが、小さな争いごとは絶えない。そんな争いごとを世界から排除するための存在である魔女と竜。それは世界中の憧れの存在で脅威である。
そして、そう簡単になれるものでもない。
まず、この唯一の機関、魔法学園に入学するだけでも至難の技なのだ。
世界中からあつまる受験者の中から選ばれるのは毎年、30~50人程度。
浪人制度もOKということもあり、信じられないほどの人数が魔女になるため、竜になるため毎年受験してくる。受験料も無料。身分も関係なし。とんだ貧乏人が合格することもあれば、どっかの貴族が落ちることもある。
ちなみに俺は一発で合格した。
自分でも何で合格したのか分からない。
みんなそう思っていると思ったら、恐ろしいことに自分が受かるのは当たり前だと思っている素晴らしい奴だらけで驚いた。
どんなことを受験でやらされるか分からない俺は、とりあえず必死に勉強して、筋トレもかかさずやってきた。
だが、そんなものはまったくの無意味だったということが分かった瞬間、嬉しさ半分悲しさ半分だった。
受験票を渡されて、その番号が書かれている部屋の前で恐ろしい人数の列に加わり自分の順番を待つ。
やっと来た自分の順番。部屋に入ると膨大な書類の束に囲まれている女性が机にむかってかりかりとせわしなくペンを動かしている姿だけが目に入る。部屋は思ったより狭く、女性が座っているイスと書類が乗っている机だけ。どうすればいいのか分からず、ぼけっと突っ立っていると女性が机に視線を向けたまま「受験票ください」と言葉を発した。いきなり話しかけられた俺は、「はっはははいっ!」と信じられないくらいの情けない声を出しながら女性の机に受験票を置く。女性はちらりと受験票を見ると、「名前は?」とこれまた机に視線を向け、ペンを動かしながら聞いてきた。「ユイリヤ・ミライです」と小さく答えると、女性はペンを止めてやっと俺の顔を見た。そして一言「合格です」といい放った。
理由が分からない。俺のどこを見て合格と判断したのか。
そしてそのまま合格者だけ、別室に呼ばれ簡単な入学までの流れ、そして受験内容は学園の者以外には話してはならないと誓約書を書かされた。
浪人して必死に修行している人達が哀れでならない。
このように何が基準でこの狭き門をくぐれるのか俺はよく分からないが確かに簡単な道のりではないと実感した。
それは限られた者しかなれない魔女と竜。
昔だったら、その血を受け継ぐ者はおのずとなれたが、今では純粋な魔女の血を受け継いでいるものなんて貴族か王族にしかいない。そして貴族も王族も基本的に魔女と竜に守ってもらう側なので、わざわざ自分から志願してなるなんて奴はいない。皮肉な話だが、契約が結ばれたあと世界を治める存在になった魔女。そして時代は流れ、今では魔女になるために努力したものが本物の魔女を守っている。竜も同じ。魔女と竜はパートナーという契約により竜の血を受け継ぐものも、そうそう居ない。一説によると、どこかの山奥にはまだ純粋な竜族が住んでいる村があるらしい。竜は神の使いとして神聖な存在だったため、契約が結ばれるまで世にはどのような存在かくわしくは知られていなかった。そして竜は人が嫌いだったのだ。契約を結んだ竜の長にほとんどの竜族達がついていったが、そうではないものたちもいたということだ。
ようはこの学園では、普通の人間を無理矢理普通じゃない存在に創りなおす機関。簡単になれるわけがないのは当たり前のことなのだ。
ちなみに俺は、貴族や王族、または世界を守るために竜なんかになりたいわけではない。
この学園を卒業したものにしかなれない、王室図書館「聖女の涙」で働く図書司書「騎士」になるために受験したのだ。王室関係の職につくためには、魔法学園を卒業していないとなれない。理由はいかなる争いからも王族達を守るためだ。
王室図書館「聖女の涙」は世界中の書物が置かれている、世界一の図書館である。その図書館を利用できる人間は限られている。貴族、王族、魔女、竜、科学者、医者、王室関係者そして騎士だけ。騎士になれば、世界中の書物を扱うことが出来る。なんと羨ましい。
魔女と竜を創る機関だが、入学したからといってみんながみんななれるわけではない。
なので魔女や竜になれなかったものにも王室関係の仕事に就けるよう、カリキュラムが組まれている。
みんなは魔女や竜に熱い思いを抱いているので、切磋琢磨し頑張っている。だけど俺はそのレールから一足先に離脱している。そりゃ、竜に憧れる気持ちもないわけではない。だが聖女の涙で働けることと比べたら竜は結構わりとどうでもいい。
と、呑気な気分で1ヶ月を過ごした俺に予想していなかった試練が訪れた。
「そろそろパートナーを決めて、再来月に行われる前期試験にそなえてください」
教師がそう告げると、教室にいる生徒全員がパートナーくらいもういるよーと声をあげ始めた。
「な、なぁ・・もしかしてお前もパートナーとかいるわけ?」
奇遇にも俺と同じ王室勤務希望でいつも一緒につるんでいる隣の席の奴、ユウリに声をかける。
「当たり前だろ。この間の記念パーティーでほとんどのやつがパートナー組んでるぜ」
記念パーティーとは入学して、すぐに行われた魔女見習いと竜見習いの全生徒と教師達が集まってなんやかんやと盛り上がる催し物。俺は大して興味がなかったので、バイトを入れてしまった。
まさかあの催し物がパートナーを決める絶好のチャンスの場だとは思わなかった。
「もしかしてお前まだパートナー組んでねぇの?」
ユウリが呆れた様子でたずねてくる。俺は縦に首を振る。
「うわ、終わったな。だから俺言ったじゃん、いくら王室希望だからっつったってパートナーいないと試験受けれねーんだぞって」
確かに、いつも言われていた。だがしかし、俺以外にもパートナー組めてねぇやつぐらいいるだろと変な安心があったのだ。
一応、魔女と竜の学校。そこはルールにのっとって在学中にパートナーを決めなければならない。試験は全部パートナーと受けるのが決まり。分かっていた。分かっちゃいるが、
「さっさと魔女科に行ってお前と同じように余ってる女捕まえてこいよ」
「ユウリの魔女ください」
「ふざけんな」
こっちこそ、ふざけんなと言いたい。大声で叫びたい。
なんで、魔女は女で竜は男、なんて決まりを作ったんだ!
つまり竜になれるのは全員男で魔女になれるのは文字通り女にしかなれないのだ。
なのでパートナーで付き合ってるのも良くあるし、結婚するのもパートナー同士がほとんどだ。
女と話したことがないわけではない。だが、パートナーって・・ひょっとしたら一生付き合っていかなきゃならねぇかもしれないのに、そんな簡単に決められねぇよ。
「ユウリくん。どうやって捕まえたの?」
机に突っ伏しながら、弱弱しい声を出す。
「向こうから声かけられた。まぁ、純粋な魔女志望の子だけどお互い在学中のパートナーってことであっさりした関係だよ。ほとんどの奴はお付き合いしてたけど」
「なんだよそれすげーな、その子可愛い?」
「カナリヤって名前の子。可愛いよ」
「なぁ、それ俺の記憶が正しければ入学式で新入生代表の挨拶してた・・」
「そうそうそれそれ。あとで会わせてやるよ」
嘘だー!!嫌だー!!こんな俺と同じでやる気もくそもないダメ生徒なのに、ふざけんなー!
ああ、なんでお互い男と男じゃダメなんだよ・・つか何で男は竜で女は魔女なんだよ・・
ちきしょー!!